ーー新任指導教官、誕生?ーー
グランコクマ、謁見の間。
そこで片膝を付いていたカンタビレは、盗賊討伐の報告を終え立ち上がった。
「では、御前を失礼いたします。陛下」
くるりと振り返ったカンタビレは早々にその場を出て行こうと思った。
が、
「なぁ、カンタビレ。報告ついでに俺の機嫌を取っていかないか?」
堂々とそんなことを言ってのけた背後にいるワガママ男の言葉に、カンタビレの足はピタリと止まる。
ここで無視しても良かった。
だが、謁見の間であるそこにはまだ複数の目があるためそんなことはできなかった。
カンタビレは嫌々顔で仕方なく振り返ってやる。
「面倒な盗賊を引っ捕らえてやった挙句、タダ働きしろと?」
「ダアトとマルクトの友好関係に寄与できるんだぞ?ありがたく拝命したらどうだ?」
「生憎と、神託の盾騎士団第六師団長に命を下せるのは導師のみですので」
「久しぶりに会ったってのに、幼馴染の頼みの一つも聞けないのか?
それとも神託の盾第六師団長殿はマルクトとの友好関係にヒビを入れるおつもりかな?」
公の話も混ぜ込まれ、カンタビレは渋い顔をマルクト皇帝の隣、しゃんと背を正す老齢の男に向けた。
「ゼーゼマン参謀総長・・・」
暗になんとかしろというそれ。
だが、
「・・・さぁて、ワシぁ執務の続きでもするかのぉ」
(「こんのクソジジイ・・・」)
わざとらしくそう言い、あてにならない参謀長はそそくさとこの場を逃げた。
まったく、こっちが逃げたいくらいだ。
深々と溜め息をついたカンタビレは仕方なくピオニーに身体を向けた。
「・・・ご用件は?」
「ちょうど新兵の剣術師範が倒れてな。代わーー」
「断る」
最後まで聞く事なく、カンタビレは腕を組み即座に言い捨てる。
それを正面から受けたピオニーは頬杖をついていた顔を、ずるっと落とした。
「お前な・・・仮にも俺は皇帝だぞ?
せめて話ぐらい最後まで聞けよ」
「公私混同してくる男が偉そうなこと抜かすな」
すでに周囲の目があることなど、どうでもいい。
不敬罪、侮辱罪その他etc...
間違いなく処罰ものだろうが、んなこと知った事か。
「口が悪いな・・・導師に抗議するぞ?」
「ふん、仕掛けたのはそっちだろうが」
「かもしれん。
が、導師イオンの耳に入れば、あの御方はなんと仰るかな?」
にやりと笑うピオニーに、カンタビレの目元は険しくなる。
二人の視線はぶつかり合い火花が散り、同じ場にいる衛兵達はまた始まったとばかりに呆れ返った。
しばらくして、響いたのは盛大な舌打ちの音。
「・・・・・・ちぃっ、覚えとけよ、ピオ」
「了承の返事だな!苦しゅうない。さて、行くぞ」
連れて行かれたのは、軍の訓練場だった。
が、
「おい・・・」
「どーした?」
カンタビレの低い声に、ピオニーが振り返える。
そこにはいつもの神託の盾の軍服ではなく、濃紺の軍服に身を包んだカンタビレの姿があった。
マルクトの国色を現すような、深い海の色。
「なんでマルクトの軍服を着なきゃならん?」
「礼なら要らんぞ、お前用に特別に作っておいたんだ」
「・・・そうじゃねぇよ」
頭痛に苛まれる頭を押さえたカンタビレは、深々と溜め息をつく。
もう、だんだん突っ込むことさえ馬鹿馬鹿しくなってきた。
反論がないことをいいことに、ピオニーは仰々しく言い返す。
「新兵の気持ちも汲んでやれよ。
それに今回はダアトに正式依頼してないんだ。お前も妙な噂、立てたくないんだろ?」
「誰のせいだ」
「ほらほら、新米共が来たぞ〜」
(「この野郎・・・」)
怒りに震える拳をどうにか収め、カンタビレはぞろぞろとやってくる
どう見ても兵士としては動きが鈍い若い男達に視線を向けた。
(「・・・こりゃ、根性あるか微妙だな」)
ダアトで実地訓練指導教官をやっていた時期を思い出す。
と、はたとカンタビレは後ろに控える呑気な男を睥睨した。
「つーか、こんなところに皇帝陛下殿がいらっしゃっていいので?」
「どうせ新兵は皇帝の顔なんざ知らねぇよ。
俺としてもどんな指導をするか見てみたいしな」
「・・・勝手にしろ」
もう取り合ってられんと、カンタビレは新米兵士集団の所へと足を向けた。
こうなればさっさと終わらせてやる。
カンタビレが集団の前に立てば、僅かだった雑談が止む。
「あー・・・本日、急遽大変不本意ながらお前らヒヨっ子共の指導教官を受け持つ事になっちまったカ・・・
・・・うぉほん、だ。
俺は士官学校で教える、型通りの指導なんざせん。
実地で使える指導しかせんから覚悟しておけ」
カンタビレの一方的な言葉に、新兵らは互いに顔を見合わせる。
それを気にする事なく、カンタビレは訓練用の木刀を手にすると、ぴたっと集団に向けた。
「訓練の前に実力を見させてもらう。
誰でもいい、俺に一太刀でも入れればこのつまらん時間は終了。
上層部には尉官に取り立てるよう進言しよう」
「なっ!?おいおいおい、勝手に!」
当然だがピオニーの焦った声がかかるが、カンタビレはどこ吹く風だ。
それに新米兵共がざわざと騒ぎ出したためそんな声を気にする者は誰もいない。
(「さて、どこまで保つか・・・やってもらおうか」)
>余談
ーー5分後・・・ーー
「ふん、最近のヒヨっ子は体力も根性もねぇのか」
「・・・お前、手加減知らねぇの?」
「訓練しろって言ったのはお前だろ」
「だからって皆ブチ伸めしてどうする・・・」
「全員、足元がお粗末だ。体力強化からやり直し、以上」
「・・・・・・」
半分八つ当たりも入ってたり(笑)
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2016.5.9