ダアト市街地。とある一軒のバーで一つの問いかけがあった。
ーー無垢故の罪ーー
「ねぇ、カンタビレはどうして左目が見えなくなったの?」
薮から棒の隣の言葉に、カンタビレは質問を投げてきた人物を見る。
そこには自身の部下であり、士官学校時代の同期生そして数少ない友人でもあるアースクラがいた。
普段と違うと言えば、酒のペースが若干早いことと、目線が揺れている事ぐらいか。
「面白くない話だ」
折角酔いに来たと言うのに、わざわざする話しでもない。
そう考えたカンタビレは話しを打ち切るようにそう言い、グラスを傾ける。
が、
「いいから・・・聞かせなさい」
ーードンッーー
やけに強気に出てきたアースクラは、テーブルにグラスを叩き付ける。
普段の穏やかな彼女にしては珍しい行動に、カンタビレはまじまじとアースクラを見た。
(「・・・珍しく酔ってるな・・・」)
それに若干、怒っていらっしゃる。
理由に心当たりは・・・
(「ああ、あれか?昼間の・・・」)
遡る事8時間前。
どっかの雑魚が逆恨みで襲ってきたかと思えば、あろうことかたまたま通りかかったアースクラを人質に取った。
それでお決まりの『人質を返して欲しくば死ね』と言われたため、アースクラを奪い返して返り討ちにしたのだ。
だが、アースクラを奪い返す際、雑魚の剣がアースクラに振り下ろされそうだったので、咄嗟に剣を素手で掴んで少々、怪我をした。
アースクラは助けられた礼もそこそこに、無茶だ無謀だ無鉄砲すぎだと怒られ、自分も渋々ながら見えない左手側じゃ加減ができなかったんだと言い訳した。
だからだろうか。
いきなり前フリも何もなく、アースクラがそんなことを聞いてきたのは。
確かに、自分の左目が見えない事は話してあったが、その理由までは話した事がなかった。
あそこまで心配してもらっては、少しは話してもいいかもしれない。
そう考えたカンタビレは、グラスを置くと音素灯に照らされる琥珀色を眺めながら話し出した。
「ガキの時分に、な。
あの時は、自分には大切な皆を守れる力があるものだと愚かにも過信していた。その報いがこれだ」
隣でアースクラが息を呑んだのが分かった。
カンタビレはもう痛まないはずの左目に自然と手が伸びる。
今でもここが疼くと思い出す。
空から舞う白い花弁、煌煌と燃える炎、喉が張り裂けるほど叫んだ慟哭、離れていく師の後ろ姿。
そして・・・
「・・・結局、俺は何も守れなかった。その代償がこれって訳だ」
「ごめんなさい・・・」
普段の彼女らしい、穏やかなだが沈んだ声が返される。
隣を見れば、どうやら酒の勢いとやらは醒めたようだった。
その姿を見たカンタビレは気にするなとばかりに肩を竦めた。
「謝るなよ、話すことを決めたのは俺だ。
それに言ったろ?面白くもない話だと」
そうだ。もうあの時とは違う。
戦える強さを、追いかけていける信念を、悲しみに対抗できる強い心を手に入れられたはずだから。
自身の過去を話すということは、相手に同じ重さを背負わせてしまうという考えのヒロイン。
その為、必要以上に自分の事を語る事はなく、聞かれないと答えることもしない。
・・・あれ?Valentineなのに甘くないw
Back
2015.2.14