(「まったく、とんだ実地訓練だよ」)

カンタビレはこれでもかというほど胸中で毒づく。
深々とため息を吐けば、肺に乾いた荒地の空気で満たされた。
何でこんな乾燥地帯の高原奥地、しかも超が付くほどの軽装備でほっぽりだされる羽目になったのか・・・
ま、事の起こりはいつも事だ。
語るに及ばない。
それよりも腹に据えかねるのは、このような一番最悪な事態になる前に気付けなかった自分の腑抜け具合にまったく、ため息が止まらなかった。























































ーー交わる縁、結ばれた絆ーー
























































ーー半日前、シェリダン港

(「はぁ、面倒くせぇ・・・」)

涼やかな潮風が頬を撫でるが、一向に気分は晴れない。
時刻は深夜。
波止場近くのさざ波を聞き流し、カンタビレは手すりに寄りかかり再び深くため息を吐いた。
毎度のやっかみで新兵の実地訓練に引っ張り出され、こんな僻地まで来る事となった。
ま、在籍年数だけみれば自分はまだ新兵に属してなければいけないのは分かっている。
しかし神託の盾騎士団のトップに立つ御方から目をかけてもらっている事もあって、今では新兵には身に余る階級となっている。
当然、それを好ましく思わない連中は多く、今回の様な嫌がらせ同然の事をやってくれているという事態になった。
ま、そんな失脚の目論見を毎回ひっくり返し、戦果をきっちりと上げるものだから連中は余計に気に食わないのだろうが・・・
こっちは知ったこっちゃない。

(「何が魔狼の討伐だ。
メジオラ高原なんざ、民間人は立ち入らんだろうが」)

全く、非生産性な任務だ。
実害が出ているところなど、いくらでもあるというのにわざわざ眠る虎を起こす必要がどこにあるんだか。

「はぁ・・・」
「おやおや、レムの御使殿がため息とはいけませんぞ」
「・・・」
「ほっほっ、御使殿は恥ずかしがり屋さんのようじゃ」
「俺の知り合いに夢遊病はいねぇぞ」
「これは手厳しいですな」

薄暗い通りから現れたのは、老齢に差し掛かったほどの老人。
月明かりに照らされた表情はとても面白そうにこちらを見ていた。
つーか、誰がレムの御使だ。

「こんな月が美しい夜にため息は似つかわしくありませんぞ」
「他人に迷惑をかけた覚えはない」
「ほっほっ、そりゃそうじゃな。
お前さん、夜が明けたらメジオラ高原に行きなさるんじゃろ」
「・・・さぁな」
「隠す事はない。さっき酒場で神託の盾騎士団のお偉いさんが語っておったでな」
(「あんの無能指揮官・・・」)
「悪い事は言わん、行くのは止めた方がええ」
「爺さん、ここの出か」
「そうじゃ」
「で、行かねぇ方が良い理由は」
「どうにも、風が騒いでな」
「あ?」

的を得ない返答にカンタビレの眉間のシワは深くなる。
それを見た老人はまた可笑しそうに笑った。

「ほっほっ、若いもんが若い時からココに皺を作るもんでない」
「作らせる事抜かした張本人が言うな」
「近頃、妙な魔物の鳴き声が聞こえてのぉ」
「・・・この港町までか?」
「風がそう聞こえただけかもしれがのお〜」
「・・・」
「ほっほっほっ」

老人は満足気に去っていった。
珍妙な介入者に違う意味でため息が溢れる。

(「なんだったんだ、まったく・・・」)

しかし、気になる事を言っていた。
長年ここに住む住人がメジオラ高原の異変を感じ取っている。
もし、さっきの話が事実だとすれば・・・

(「今は実害が無いにしろ、探って損はないか。
ま、指揮する連中も多少は備えてるだろう、こっちが動いてやる義理もねぇな」)

ーーグオォォォォォォ!ーー
「っ!何が、備えてるだ・・・あんの、無能共が!」
ーーギィィィーーーンッ!!ーー
「ちぃっ!」

襲いかかる魔物を弾き飛ばし、自分の読みの甘さとこんな事態を引き起こした張本人と刃こぼれした剣とその他諸々に思わず悪態を吐く。
翌日早朝、メジオラ高原に入り指揮官の指図の元、魔物を討伐していれば突如現れたのは、巨大な魔物。
ブレイドレックス。
巨体の割に俊敏な動きで獲物の肉をぞろりと並んだ顎で八つ裂きにする、新兵には到底太刀打ちできない魔物だ。
誰もが身を竦ませる中、一目散に逃げ出したのは指揮官だった。
だが、皮肉にも逃げる者を追う習性があるブレイドレックスの最初の犠牲もそいつとなった。
暫く響くは生々しい音。
そして、

ーーグルオオオオオオオオッ!!ーー
「退避っ!!」

鼓膜を破かんばかりの咆哮、誰かの指令の声。
他の新兵達は蜘蛛の子を散らしたように逃げまどう。
結果、部隊は散り散り。
しかも悪い事に血の臭いに他の魔物までもが集まり出し、収拾のつかない状況だ。

(「くそ、地図もないんじゃ現在地の把握もーー!」)
「ひっ!」

背後の気配に剣を向ければ、情けない悲鳴が上がる。
格好からして幸運にも逃げ延びた新兵のようだった。

「生き残りか」
「た、頼む!出口を教えてくれ!」
「大声出すな阿呆。知ってたら俺がんな所にいるかよ」
「そ、そんな・・・」

目に見えての焦燥、青白い顔。
身体の至る所にこびり付く赤黒い物。
何よりその瞳には恐怖しか宿っていない。

(「早死にするタイプだな」)
「お、オレ死にたくない・・・こんな、ところで・・・」
「だがこのままじゃ死ぬだろうな」
「っ!」
「生き残りたきゃ戦え」
「む、無理だ。オレはまだ訓練を受けたばかーー」
「んなの魔物に関係ねぇぞ」
「そんな・・・」
「選べ。
ここに隠れて魔物に殺されるのを待つか、生きる為に俺と一緒に戦うか」












































ーーグルォォォォォォ!ーー
「せい!」
ーーギャァッ!ーー
ーービキッーー
「ちぃっ!」
「カンタビレさん!
癒しの力よ・・・ファーストエイド!」
「しつけーんだ、よ!」
ーーギャァァァァッ!ーー

喉元を剣で貫いた魔狼から得物を引き抜く。
振り払って血糊を飛ばし、手近な崖下へと魔狼を蹴落とした。
襲ってきた魔物をすべて捌き切った事でカンタビレは小さく息を吐く。

「カンタビレさん!大丈夫ですか?」
「かすり傷だ問題ない。
それよりお前、治癒術士だったんだな」
「は、はい。オレ、実地訓練は初めてですけど・・・」
「それだけ使えりゃ上々だ。行くぞ」
「は、はい!」

拾った新兵はジャンと名乗った。
出口へ向かうなか、途中で拾った生き残りは増えていき、今では10人ほどとなった。
分散させて進ませているが、戦力としては心許ないの一言に尽きた。

(「さっさと帰りたいのが本音だが」)
「あ、あのカンタビレさん・・・」
「なんだ、くだらねぇ事言ったら置いてくぞ」
「その・・・オレの剣使ってください」
「あ?」
「あの、さっきの戦闘でヒビ入ってたじゃないですか」

何を言うかと思えば・・・
妙な所で目敏いというか、そういう気遣いは別な所で発揮してもらいたいものだ。
ま、ジャンの申し出も分からないことはない。
これまでの戦闘でジャンの腰にある剣は一度も抜かれていない。
治癒術士だから、ということもあるだろうがその手は剣など握った事がないものだとカンタビレは早々に気付いていた。

「要らん世話だ、お前が持っとけ。
それが命拾いになるかもしれねぇだろうが」
「で、でも・・・」
「まさか新兵の配給される剣がこれほど焼きが甘いとはな。
こんなんだったら嫌味覚悟で自分の持ってくりゃ良かったぜ」
「え?カンタビレさん自分の剣、持ってるんですか?」
「こっちの話だ、忘れろ」
「はぁ・・・」

思わず口が滑った。
自身の剣を持たされるのは、それなりな階級を得た時だったというのを忘れていた。
変に詮索されても面倒だ。

「それより、ご丁寧な目印で出口探してんが、出てくるのは魔物ばっかだぜ」
「そ、そうですね・・・」
「ったく、とんだ厄ーージャン、上だ!
「え?うわぁ!
「ジャン!」
ーーギャオォォォッ!ーー
「挟まれたか!」

再び魔物に囲まれた。
先ほどより数は少ないが、後援のジャンが切り離された。
どうにかしてやるにも、こっちの目の前には行く手を遮るように魔狼がこちらを見つめている。

「ひっ!助けーー」
「ジャン!腰にぶら下げてるを使え馬鹿野郎が!」
「で、でも・・・」
「さっさと、しろ!」
ーーバキィーーーンッ!ーー
「んのナマクラが!」
「うわぁぁぁ!」
「ジャン!」
ーーギィィィーーーンッ!ーー

やっとジャンは剣を抜いて、魔狼の一撃を防いだ。
だが、あんな体制では次はない。
カンタビレの目の前には魔狼が3匹。
手元には刃が折れた1/3ほどの剣しかない。
くそッと悪態を吐いたときだ。
かつん、とカンタビレの足に金属音が当たる。
視線を下げてみれば、それは一番最初の犠牲者となった奴が下げていたもの。
瞬間、魔狼がこちらに飛び掛った。

(「初めて役に立ったな!」)
「はぁっ!」
ーーザンッ!ーー

迷わずカンタビレは柄を掴み一閃させれば、魔狼は音素へと化した。

「ジャン!」
「は、はい!」
「あ?」

んな呑気な返事返せる状況では無いはずだろうが。
振り返れば、息絶えた魔狼は焼かれていた。
そして、困ったようにヘラッと笑うジャン。

「助けてもらいました」
「おい大丈夫か!?」
「間に合った」
「・・・生き残りがまだ居たのか」

現れたのは、同じ部隊だと分かる服装。
見たところ剣士に、後ろから来るのは譜術士か。

「おお、良かった。そっちも無事ーー」
「無駄話は後だ、そっちは何人居る?」
「3人だ」
「こっちと合わせて13か、微妙な所だな」
「微妙って一体何が・・・」
「部隊を潰した魔物を狩る算段の話だ」
「は?」
「無理ですよ!」
「そうだ、あんな魔物にオレ達が敵うわけない」
「こんなこと生誕の預言にもーー」
「騒ぐなら黙って騒げ」

合流した剣士以外とジャンの囀りをカンタビレは一言で捩じ伏せた。
まったく、どいつもこいつも預言預言と。
イライラする、そんなモノに踊らされいる奴らがいるのも。
・・・そんなモノに縛られてしまっているあの人も・・・

「ここに残るってんなら止めはしねぇ。
預言だ?預言がこの状況を救ってくれると、あんたら本気で考えてんのか。
ここまで辿り着いたのは、あんたら自分で動いてきたからだろ、預言のおかげでも何でもない」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「あんたは襲ってきた魔物を知ってんのか?」

まだ冷静な方の剣士が問えば、カンタビレは首肯した。

「あの魔物はブレイドレックス、厄介なのは脚力と出会った時に聞いた咆哮だ。
アレに見つかって人の足で逃げ切るのは無理。
そしてアレは瀕死になると仲間を呼び寄せる、今の戦力で仲間を呼ばれれば生き残るは難しくなる」
「なら、早くーー」
「ブレイドレックスはそこらの魔狼と違う。
恐ろしく賢いんだよ」
ーードーーーンッ!ーー

カンタビレの言葉を証明するように、辺りに地響きが轟く。
全員が岩陰に隠れると、そう遠くないところでブレイドレックスが部隊の生き残りを狩ろうとしている所だった。

「助けないと」
「手遅れだ」
「そんな!」
『く、来るな!』
『誰か、たすけ』
『がぁっ!!』

一人、また一人と顎の餌食になっていく。
そして、最後の一人は追い詰められた岩場を背に恐怖で捕食者から逃れようと虚しく後退していた。

「まだ間に合ーー」
「止めろジャン。
ここで飛び出すのは勇敢じゃなく蛮勇ってんだよ」
「でも!ディクスがーー」
『剛・魔神剣!!』
ーーギャャャャャ!ーー

突如の咆哮。
カンタビレはジャンの腕を放すと、何が起こったのか場所を変え様子を伺った。
すると、いかにも満身創痍な男がブレイドレックスに剣を向けていた。
座り込んでいる、がたいが良いあの男。
確か指揮官のそばに居たような記憶があるが、利き腕は反対だったような気がした・・・

(「しかし、あの体制からよく当てたな」)
「ディクス!」
「知り合いか?」
「オレの同期で・・・」

蒼白となるジャン。
視線の先には新兵、そしてその顔には焦りと恐怖と、無力感。
カンタビレは逃げるディクスの背に譜業銃を見留め、ジャンに問うた。

「アイツ、射撃の腕はどうだ?」
「え?せ、成績は上位の方だって聞いたけど」
「・・・」
「カンタビレさん?」
「なぁ、あんた名は」
「ん?ローワンだ」
「ローワン。アレ、狩れる案があんだが乗るか?」

すぐ近くでブレイドレックスが新兵を逃した男と睨み合っている中、カンタビレの楽しげな企み顏にローワンは楽しげに口角を上げた。

「面白そうだな、一口乗るぜ」


















































岩陰を伝い、カンタビレはあっという間にブレイドレックスを岩越しに捉えた。
そして、こちらにどんどん距離を詰め獲物に飛び掛かろうとした瞬間、その間合いに飛び込んだ。

ーーギィーーーン!ーー
「!?」
「おいおい、とんだ死にたがりだな」

ブレイドレックスを弾き飛ばしたカンタビレは、負傷しながら新兵を庇った、逃げもしてない男の前に降り立つ。

(「流石、腐っても指揮官配給品だな」)

先ほどと違い、刃こぼれ一つないことにカンタビレは満足気に鼻で笑う。
危機的状況だというのに、装備がマトモなだけで気分が高揚してくる。
作戦は至極単純だ、時間稼ぎにそんなに相手してやる必要もない。
カンタビレは背後で惚ける男に振り返った。

「あんた確かこの隊の副官で、マー・・・マッスル響士?」
「マールスだ」
「おー、それそれ」

場に不釣り合いなほど、カンタビレはけらけらと笑う。
たがマールスは切羽詰まったように続けた。

「おい、さっさと負傷者を連れて逃げろ。
こんな俺でも時間稼ぎにはなる」
「はあ?あんた自分を犠牲に他の奴等を助けるってのか」
「そうだ。だから早ーー」
「ざけんじゃねぇよ」

カンタビレは先ほどから一転、地を這うような低い声で不機嫌に吐き棄てた。

「偏執狂の次は自己犠牲主義者かよ。
死にたがりなら、俺のいない所でくたばりやがれ。
俺の目の前で勝手に死なせてやらねぇよ」
「・・・」
「ったく、こんな奴が上官ってやってられねぇ、ぜ!
ーーグギャャャャャ!!ーー

カンタビレが剣を一閃させれば、土埃が舞いブレイドレックスの角は斬り落とされた。
ブレイドレックスは怯んだようにこちらと距離を取り、
痛みにもがき頭を振る。
周囲に血飛沫が飛ぶが、カンタビレはその動きから目を離さず、相手の出方を待つ。
このまま去ってくれるかと思ったが、どうやらブレイドレックスは退く気はないようだ。

「ったく、しつけー奴だな」
「もういい。お前も俺を置いて早くーー」
「自殺志願者は黙って喋ってろ」

外野をだまらせ、カンタビレはゆっくりとブレイドレックスと距離を詰める。
互いに睨み合う中、カンタビレの目の端に光を捉えた。
瞬間、

「今だ!」
ーーパンッ!ーー
ーーパンッ!ーー
ーーパンッ!ーー

カンタビレの合図にブレイドレックスめがけ三方向から魔物捕獲用の網が撃ち込まれる。
ブレイドレックスは怒り狂ったように身を捩り、網から抜け出そうとするがそれは計算尽くだ。
目論見通り、ブレイドレックスの動きは徐々に鈍っていく。

(「頃合いだな」)
「次、譜術士全員、脚を集中攻撃。砲撃手、目を潰せ」
ーーグ、ギャ、ャャーー
「終いだ、奴が倒れたと同時に総攻撃」
(「沈め、グラビティ!」)
ーーズーーーンッ!ーー

小声で譜術を放ってば、手負いのブレイドレックスは簡単に地面に崩れ落ちた。
そして、ローワンを筆頭に剣を持った新兵が次々と魔物の喉元へと突き立てる。
暫くして、ブレイドレックスは完全に動きを止め、荒野に鬨の声が響き渡った。


















































夕暮れ時。
手負いの一団は港町に辿り着いた。
怪我人に手当てが成され、救援の要請も済み、明日にはダアトに帰れる事となった。

「ふあ〜ぁ」
「おーいたいた」
「あ?」

昨夜と同じ、波止場から夕焼けを見ていたカンタビレの背に声がかかる。
長い散々な1日の終わりに、デジャビュな出来事が思い出されカンタビレは不機嫌顔で振り返れば、その顔は変わる事なくため息が漏れた。

「んだ、ローワンかよ」
「ご挨拶だな、死線を共にくぐった仲だろうがよ」
「へー、んな死線なんかあったかねー」
「お前・・・変な奴だな。
アレだけの直面したら、他の奴らみたいぶっ倒れるのが普通じゃねぇの?
大口開けて欠伸なんざ、とんだ変人だな」
「じゃ、ぶっ倒れてねぇローワンも変人ってこった」
「オレは実地演習の数こなしてるだけだ」
「それは失礼しました、ローワン先輩」
「止めろ、ブレイドレックスのツノを単身斬り落としたお前に先輩呼ばわりなんざサブイボ出来るぜ」

大袈裟に身を竦めるローワンに冷たい視線を向けたカンタビレは、面倒そうに視線を夕焼けに戻した。

「じゃ、ローワン。何の用だ」
「お前さどう見ーーぶっ!」
「近けぇよ、少しは遠慮しろ」
「ててて・・・首筋逝くとこだったぞ!」
「ヌルい鍛え方してる首だな」
「・・・やっぱお前、どー見ても新兵じゃねぇだろ。なんでこんな任務に来てるワケ?」
「くだらねぇ質問だな」
「そう言うなって」
「・・・『オトナの事情』だ」
「お、オレよか歳下のお前が『オトナの事情』かよ」
「そうだよ」
「ふーん」
「ほれ、さっさと寝ろよ先輩」
「最後の質問に答え貰ったらな」
「答えるとは言ってねぇぞ」
「どうして、他の連中も助けたんだ?」

飾りのない問いに、カンタビレはローワンに視線を戻す。
そこには、巫山戯けた表情などない、真剣なローワンがこちらを見据えていた。

「お前、本当は一人だけでもブレイドレックス倒せるだろ。
なんで足手まとい確実な他の奴らまで助けたんだ」
「どうしてんなこと知りたいんだよ」
「オレの個人的シュミ」
「悪癖だな」
「ほっとけ」

おちゃらけているが、視線の強さは変わらない。
カンタビレは仕方なさそうに肩を竦めた。

「そーだな。強いて言えば、ある方の教えってところだ」
「教え?」
「『今持てる力を己だけでなく、他の誰かの為に使えば成される事は更に大きくなる』・・・だと」
「だから助けたのか?」
「ま、無能指揮官の所為で散らせるにゃ惜しい命だ。
それに寝覚めが悪い事はしたくない性分でな」
「結局どっちだよ」
「半々だ」

今度はカンタビレがニヤリと笑ってやれば、面食らったようにローワンは吹き出した。

「カンタビレ」
「ん?」
「お前、実は良い奴だよな」
「ローは頭が沸いてるよな」
「はぁ!?そんな返し有り得ねぇだろ!
ツンデレかお前!」
「俺がいつデレたよ阿保」
「ならヤンデーー」
「中二病の口閉じんと突き落とすぞ」
「・・・ま、冗談はこんくらいにしておくぜ」

ホールドアップしたローワンから差し出された手に、カンタビレは疑問符を浮かべる。
それに返されたのはまるでイタズラを企む悪ガキのような笑顔だった。

「また同じ部隊になったらよろしくな」
「おう」
「お前、敵に回したらおっかねぇしよ〜」
「せいぜい気をつけな」
「おま、容赦しねぇ気だな!?」
「死線を共にくぐった仲のよしみだ。
嬲る趣味はねぇ、さっさと引導を渡してやる」
「ひぃぃ、有り難てえけど怖ぇええ!
・・・なんてな」

太陽が沈む刹那、二つの影が笑いあう。
新たな絆が結ばれたその日の小さな出来事。
果てなく続く縁は、何度も何度も互いを救った。
そして、その行く先に待っていたのは・・・


























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2016.10.1