「カンタビレ、あなたに紹介したい人がいるんです」
「はぁ・・・俺と顔つき合わせたいなんて誰なんです、んなモノ好きは」
ーー邂逅ーー
『まだ士官学校を卒業したばかりですが、成績はトップで合格しています。
希望の部隊を聞いた際に、是非あなたに会いたいとのことで・・・
良ければ時間を作ってあげてくれませんか?』
(「面倒くさ」)
なんて本音を全面に出した顔で、カンタビレは深々とため息を吐くと、指定された場所である第3碑石の前に一人の男が立っていた。
と、こちらに気付いたらしい男はこちらを見た。
(「こいつが、ヴァン・グランツ・・・」)
若い割に随分と落ち着いた雰囲気を持っている。
ま、人の事を言えた義理でもないが。
「あなたが導師守護役補佐役の・・・」
「カンタビレだ。なんで俺なんかと?」
「エベノス様より優秀な方だと伺っておりまして」
「だから面会申し込んだってか?
んなくだらねぇ理由で手間取らせんじゃねぇよ」
「いえ、この方法ならあなたに面と向かってお願いができると思ったので」
「は?」
不機嫌さを増したカンタビレが腕を組み、威圧感が増している中、ヴァンは居住まいを正すと頭を深く下げた。
「私と手合わせ願います」
「お前・・・まさかそのために首席取ったのかよ?」
「本気で挑みたくとも今の私の身分では、相手にしてもらえないと思いましたので」
(「エベノス様、知っててワザとこんな・・・」)
カンタビレは苦虫を噛み潰す。
・・・いや、らしいと言えばらしいか。
この男の願いを聞いていたエベノスなら、今の自分の立場なら命じればいいだけの話だ。
それをわざわざこっちの選択を残すやり方をしてくれる。
まったく、あの人は・・・
「はぁ・・・酔狂だな」
どちらに向けたか分からない呟きをカンタビレは重く吐き出した。
ーー神託の盾騎士団本部、修練場
ーーガギィィィーーーンッ!!ーー
(「なるほどな、啖呵切るだけの腕はあるか」)
剣戟の火花を散らし、カンタビレは冷静に判じた。
面倒事は早く片付ける、とばかりにそのまま修練場に移動したカンタビレとヴァンはさっそく目的を果たしていた。
一合二合と斬り結び、戦況は五分といったところ。
ヴァンの斬撃は重く、新兵と呼ぶには狙いも急所を容赦なく突いてくる。
新兵とは言えないほどのそれ、カンタビレには思い当たる節があった。
これは、大切なモノを失った引き換えに得てしまった、迷い払う・・・目的を遂げる太刀筋。
ーー『さようなら、私の親友』ーー
「!」
「もらっーー!」
カンタビレが僅かに足元を取られ、体勢を崩した瞬間、ヴァンが斬り込んだ。
ガラ空きの脇腹に吸い込まれるように、鋼の刃がーー
ーートンッーー
「詰みだ」
「・・・」
だが、ヴァンの剣は空を切った。
そればかりか目の前にあったはずのカンタビレの姿はなく、自身の肩を剣の背で叩いたカンタビレが背後に佇んでいた。
集中は切らしていなかった。
目も間違いなく開いていた。
僅かにバランスを崩したカンタビレが見せた最大の隙を、自分は間違いなく容赦なく斬り込んだはずだった。
だから、バランスを崩したあの体勢から、背後を取られるなど、見失うなどあり得ないはずなのに・・・
「お前、いい腕してんな」
「あの体勢から、どうやって・・・」
「はっ、こんなんで面食らってんじゃねぇよ。
世界は広い、俺よか腕がある奴はゴロゴロしてんだぜ」
息を乱すことなく、カンタビレは自身の肩をトントンと剣で叩いた。
惚けていたヴァンだったが、勝負あったことで次に見せたのは悔しさの滲んだ表情。
「流石、最年少で士官学校を卒業した実力の持ち主ですね」
「一つ言っとく。今度俺におべっか使いやがったら転がすからな」
「は?」
「軍が重んじるのは任務の完遂だ、階級だの派閥だの権力だのに胡座かいて誇示する奴が俺は嫌いだ」
嫌悪感を剥き出しで吐き捨てたカンタビレは剣を鞘に収め、ヴァンに背を向けた。
「お前もそうならねぇようにすんだな。
んな奴が俺を阻むなら、誰であれ容赦せん」
「・・・以後、気を付けましょう」
「その腕だ、すぐに階級は上がるだろう。
せめて預かった部隊を無駄死にだけさせる無能にはなんなよな」
後ろ手を振ったカンタビレはそのまま修練場を歩き去った。
そして、そのはるか上。
修練場を見下ろせるテラスに、二つの影があった。
「・・・」
「どうなされました、エベノス様?」
「いいえ、何でもありませんよ」
この日から程なくして、カンタビレに実地訓練統括将校としての階級が与えられることとなるが、それはまた別の話。
すんごい勢い品。
二人が17歳の頃の話。
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2016.10.9