ーー監視?ーー
















































































































衝立が自身を囲むように巡らせた暗い空間。
時間の流れが麻痺するそこで、今しがた聞かされた一方的な話に普段はそこまで感情を表に出さないはずのの表情が盛大に歪んだ。

「不服か?」

抗いを見咎める年嵩の横柄な声。
それには臆するでもなく、鼻先で笑い返した。

「・・・元より信用も信頼もしてない期待値が皆無の相手に不服を抱くなど、そちらには私がそんなに愚かに見えているとはおめでたい限りですね」

在らん限りの嫌悪感を込めて吐き捨てるように言えば、空間は怒気で満たされる。
分かっている。
これ以上の反抗的な態度はきっと自分には不利に働く。
何しろ適当な言いがかりで何らかの処罰をふっかけてくるような連中だ。
だが、頭の冷静な部分でそう分かっていても今回ばかりは黙っていられなかった。

「言葉を慎め」
「それは失礼を。
下衆な勘繰りをしたいならどうぞご自由になさってください」
「貴様に拒否できる権利はないぞ」
「元より、そんなこと承知してますが。これ以上同じ話を続けるなら失礼しても?
何処ぞの考えなし・・・失礼、上から回された任務が立て込んでおりますので、こんな私でも任務に行かなければならないのですが?」
「・・・下がれ」

低い恫喝には歩き出す。
が、そうそう、と小さく呟くと歩みを止めた。

「これはあくまで独り言ですが、特級の肩書きを持ち、己の野望を実現しようとしている者が私如きに気を割くという思考回路は甚だ疑問ですね。
あくまで独り言、ですけどね」

独り言にしてははっきりとした声音で言い捨てると、追加の嫌味が来る前に足早に出口へと向かう。
外に出た。
肌を撫でる乾いた外気と高い空に幾分、気は晴れる。
しかし、気持ちは変わらず沈んでいた。
と、視線の先に先程聞かされた監視役が待っていた事では足早に近付き頭を下げた。

「お手間をおかけします、冥さん」
「気にしないでいいよ。別途、手当は付いているからね」
「それは何よりです」
「聞いた噂じゃ、上層部に大層食ってかかったらしいね」

『聞いた噂』と言う割にまるでつい今しがたの喚問の場を見ていたような言葉。
いつもの腹の読めない微笑を浮かべる冥冥に、は乾いた笑みを返すのがやっとだった。

「・・・さすが、耳が早いですね」
「随分と反抗的だったから、よくよく注意しろとまで言われてしまったよ」
「それ、監視対象の私に伝えてはまずいのでは?」
「ふふふ、君らしくないと思ったから思わず口が滑ってしまったよ」

そうは言いながらも余裕な態度が崩れないのは相変わらずだ。
腹の探り合いのような挨拶を終えると、次の任務の集合時間が迫っていたこともあり二人は並んで歩き出す。

「酷く腹が立ったのは事実です」

冥冥より少し先を歩いていたは、ぽつりとこぼした。

「今更、高専時代の話を邪推した上に蒸し返してきて、先日の大捕物の上の失敗をこんな形で押し付けられるのは不愉快でしたので」
「少ししおらしくしていれば、ここまでにはならなかっただろうね」
「それ、硝子さんにも言われました」

愚痴とも文句とも言えない自分の言葉への返しにはげんなりとした苦々しい表情を浮かべる。
年長者(冥冥の実年齢は知らないが)からの同じ意見が返されるも当然のこと。
何しろ、自分自身でも自覚済みだ。
平時ならしおらしくしていただろうが、今回に関してだけは余計な疑念を持たれようが言ってやらねば気が済まなかった。
深く嘆息したは気を取り直すように一つ伸び上がった。

「ま、別に良いですよ。
盛大に肩透かしすればいい気味ですから」
「そうなるかは君がコントロールできることじゃないけどね」
「ご心配なく。私の直感は結構当たるんです」

そもそも見当違いなことが分かっているから余計にだ。
水面下で進められていたという呪詛師の一斉摘発。
しかし蓋を開けてみれば、捕まえられた呪詛師は片手で足りた上に、そもそも大規模な良からぬことを計画していた割には子供だまし紛いなあまりにもお粗末な計画ばかり。
情報の収集・精査の段階で数名の術師を投入するだけで事足りたというのに、何を考えて上は無駄といえるほどの人数を集めたのか。
そして仕舞いには特級呪詛師の介入によりどこぞの内通者が情報をリークしたから失敗したときた。
馬鹿馬鹿しすぎて突っ込む気すら起きない。
そもそも、どう考えてもあの人が使うような手ではないことは明白だ。
愚痴をこぼした医務室でも、『んな小学生が使うような手をあいつがしてたらとっくに死んでるわ』と一笑に付された。
とんだ面倒を押し付けられた、とげんなりしていれば新たに冥冥から声がかかる。

「そういえば、君は準一級だったかな」
「はい」
「一級になるつもりはないのかい?」
「無いですね」

自分には議論の余地すらないことなので間髪入れずに返答してみれば、その答えが意外だったのか、冥冥は一呼吸間を置いて返事が返った。

「おや、即答だね」
「元々、この準一級だって出張中の特級バカが半ば冗談で推薦した所為ですから」
「ふむ、君の働きぶりを見ていると一級に十分に見合う実力を持っているよ。
気が向いたら推薦人になってあげよう」

どこまでが本気でどこまでが冗談か分からない不敵な笑みを返してくる冥冥にとっさの言葉が出ない。
現役かつ実力者である人からの申し出はもちろんありがたい。

「・・・ありがとうございます、覚えておきますよ」

そう、とってもありがたいのだが本気でこの人に推薦人を頼むこととなれば、手持ちの通帳ではゼロの桁があとどれくらい必要だろうかと、思わず考えてしまっただった。





























































ーー監視役ですよね?
冥「さて、任務の後はどこかに食事でも行こうか」
 「え・・・私、冥さんのお口にあうようなハイセンスなお店、知らないんですけど」
冥「問題ないよ、私の行きつけの店が都内にある」
 「いやいや、それなら私はお邪魔になるので遠慮させてください」
冥「ふふ、そこも問題ない。必要経費は別途請求できるからね」
 「あの・・・そもそも監視対象との食事が必要経費って・・・」





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2024.01.12