内心では何度目か分からない深々としたため息をついた。

(「はぁ・・・実は私、雨女だったりするのかな・・・」)

地面を打つ激しい雨は足元にうっすらとモヤを作っていた。
通り雨の洗礼でずぶ濡れとなり、屋根がある近場で雨を凌ぎながらもうすぐ一時間に届く。
しゃがんだまま止む気配のないどんよりとした空を見上げたは再びため息をついた。














































































































ーーre-rainーー















































































































昨日の任務、いつもと変わらないはずの任務となるはずだった。
しかし現場に来てみれば、子供の遺体が転がっていた。
後の調査で分かったのは、行方不明となっていた修学旅行生だという。
都会に来て気持ちが盛り上がったか知らないが、とんだ修学旅行の締めくくりだ。
呪霊を祓い終え、確認できた遺体について補助監督に連絡を入れいつも通りその場を後にした。
どうにもならなかった。
その事実は変わらないが、やるせ無さを感じずにはいられない。
だから気分を変えようとランニングに出てみればこのザマだ。

(「なんだか悉く裏目に出てる気がする・・・」)

膝を抱えたまま頬杖をついたはいつ止むとも分からぬ空を見上げる。
思い出される学生時代。
全てが空回っていた時期があった。
あの時はただ闇雲に進むしかないと、考えることから目を背けていた。
任務でも傷を負うことなど構わず、いやむしろ傷を負うことを望んでいた気がする。
できる事なら、このままいっそ・・・
蓋をしていはずの希死念慮が再び首をもたげようとしてーー

「うわ、何してんの?」

思考を中断した聞き覚えのある声に首を巡らせる。
そこには自身の術式で雨に濡れる事ない長身が立っていた。
傍目に見れば、雨の中、傘もささずにしかも濡れずに歩いている不審者。
・・・いや、問題はそこじゃない。

「五条さんこそ、こんな所で何してるんですか?」
「いや、先に聞いたの僕だけど」
「私は見ての通り雨宿りですけど」
「んなずぶ濡れで雨宿りもねーでしょ」

あれ、なんだろう。
こんなやり取り、ずっと前にもあった気がした。
しかし、その記憶を手繰る前にこの人がこの場に居る意味に自然と目が据わる。

「そっちはまたサボりですか?」
「お前は顔合わせる度にサボりと決めつけるの何なの?」
「今までの実績が成せる有力候補が他にありますか?」
「ありすぎるでしょ」
「私の記憶には皆無ですね」
「わー、可愛げなっ」

目元を隠しているのに本当に吐きそうな表情でその男は隠しもせず言い放つ。
いつものやり取り。
学生の時から変わらない立ち位置、変わらぬ実力差、変わらない現実。
だというのに、先程までの暗い気持ちが霧散していることには吹き出した。

「ふは!」
「・・・は?」

突然そんなことをされた悟の空気が呆気から不穏に変わる。
しかし、それすらも可笑そうには肩を震わせた。

「いや、すみません・・・なんでもないです」
「こんなイケメン見て吹き出しといて何もないワケないでしょ」
「はいはい、五条さんはイケメンです」
「雑っ!」

騒ぐ目の前を尻目に、はひとしきり声を殺しながらも笑う。
どうしてこの人は気持ちが張り詰めたタイミングで現れるのか。
あの時だってそうだ。
違っているのは笑い転げていたのは相手で、不機嫌顔は自分だった。
けど、結局最後には気分が晴れたのは変わらなくて、矛盾と整合が織り合う現状には居住まいを正すように深々と息を吐いた。

「はー・・・何でもないんですよ、前もこんな事あったなって思っただけですから」
「お前が昔話とか、年寄りかよ」
「私よりお爺ちゃんのくせに」
「あ"?」
「何でもないです」
「つーか、いつまでそんな格好でいんだよ」

そう言った悟がに手を差し出した。
今度はが呆気に取られる番だった。

「・・・は?」
「『は?』じゃないでしょうが。ほれ、手貸してやる」
「・・・」

あぁ、これはあの時と同じ。
あの時から続く地獄のはずなのに、この人が居るだけで幸運にもまだ生き残れている自分の方が救われている。
でも昔のあの時と違う男からの気遣いには相好を崩した。

「何だよ?」
「疲れて歩けないので抱えてください」
「調子乗んな」


























































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2023.10.15