気付いた時には呪霊が目前に迫っていた。
これでは掌印の時間が無い。
(「しまっ!」)
ーードンッーー
最悪を覚悟した時、突然襲った衝撃に地面に倒れる。
と、同時に乾いた音が響いた。
ーーパンパンパンパンパン!ーー
ようやく顔をあげると、そこには帳の中に居たはずの同期の後ろ姿があった。
「伊地知くん、怪我は?」
「え・・・、さん」
「ごめん、余裕なくて突き飛ばした。それより怪我は?」
「だ、大丈夫です」
「そっちの新人くんは?」
「彼も恐らく・・・ただ、頭を打っているので」
「ん、了解」
短く返したは瞬きの間に弾倉を新たにすると、スライドの軽い音が続く。
そして再び呪霊に向き直ったは長く息を吐き出すと再び引き金に指をかけた。
ーー僅有絶無(きんゆうぜつむ)ーー
ーーズザザザザッ!ーー
(「ったく、場所との相性が良すぎるのも考えものだな・・・」)
『オオオオオオオォ・・・・』
地面を滑り呪霊の攻撃を避けたは内心で面倒そうに呟いた。
の目の前には大群となった呪霊の群れ。
残りの手持ちの弾倉では片付けるには無理のある数だ。
もう仕方ないと、地面に付いていた片手を服の裾で払いながらもう片手の呪具を腰元へと戻した。
「伊地知くん」
「はい?」
「ごめん、取りこぼし出るだろうから新人くんと結界で凌いでもらえる?
近接で片付けるしかないっぽいし」
「・・・分かりました。お気を付けて」
「はーい、善処しまっす!」
地を蹴ると同時に引き抜いたナイフを一閃させたは大群に斬り込んでいった。
しばらくして、残り数体まで減った。
だが、呪霊以外の気配には眉根を寄せた。
(「粗方片付いたけど、なんか妙・・・」)
「伊地知くん」
「はい」
「帳の外って、避難状況ってどうだったか覚えてる?」
「ここは元々人通りが無いらしいので特にそういった指示は出していません」
「あー、なるほどね・・・」
「さん?」
潔高の答えに疑問点が解決したとばかりに、はナイフを元の場所へと戻す。
そして、再びホルスターに収めた呪具を手に、あからさまに銃弾を交換しスライドを引き装填を完了した状態のは、呪霊に近づきながら声を張った。
「さて、残りは一角か。反撃無いならこのまま一思いに祓ってやろうかなー」
の言葉に固まっていた呪霊は融合したように一つになると飛び上がった。
目算で5Mほどの天井近くに取り付きまるでこちらを威嚇するように声を発する。
そして、まるで近付けば殺すというように、先程まではなかった子供をこちらに見せつけてきた。
突如、目の前に現れた人質に潔高は狼狽を見せる。
「そんな!?」
「障りが出てる上に、呪霊の中にもいるっぽいな・・・数は合計で二人」
「どうすれば・・・」
「うーん、私の呪具だと届くけど間違いなく人質ごと貫通するしな。
かと言ってナイフじゃ届かないし・・・
それが分かってるのか、呪力の中心に盾にしてるなんて小狡い知恵だけは回るな」
んー、と顎に手を当て首をひね淡々とすると対象に顔色悪くした潔高は、負傷した新人を背後に庇いながらこちらに背を向ける同期に問うた。
「どうしますか?」
「そりゃ、任務だもん。祓うよ」
「ですが!」
「伊地知くん」
突然呼ばれた名に返事を返そうとしたが、その前には下ろしていた呪具を呪霊に向けた。
「受け止めは任せたから、ね」
ーーパンッ!ーー
『オオオオオオオォ・・・・』
乾いた音と同時に耳障りな残響が響き渡る。
そして、じわじわと崩れていく呪霊から人質となった子供が落ちてきたことで、潔高は慌てて落下地点へと滑り込んだ。
ーードサッ!ーー
降ってきた子供を危なげなくキャッチした潔高は、すぐに負傷具合をチェックする。
しかし呪霊による障りが出、意識が無いだけで出血は見当たらなかった。
「怪我、してない・・・さんどうやっ・・・!」
「はぁ・・・上手くいって良かった」
ホッとしたようなの声が背後から響いてきたことで振り返った潔高の表情が固まった。
そこには片膝をついたが、出血している左手を押さえ痛みを堪えている姿があった。
「な!?
さん!」
「あー、派手に見えるだけでたいしたことないから。骨と神経は避けてたし、硝子さんに診てもらえば問題なし。
それより、そっちの子供と新人くん運ぼうよ」
転がる呪具の銃口にべっとりと付いている血痕に負傷の無かった人質。
出血が止まらないの左手を見れば何をしたかなど容易に想像ができたが、それを躊躇なく実行し、あまつさえその状態で負傷者を手当しようとしている後ろ背に潔高は慌てて駆け寄った。
「まさか、貫通の衝撃をご自身の手で弱めたんですか!?」
「まぁまぁ、細かいことは後だって。ともかく車回してもらっていい?
その間にこの子達の応急処ーー」
「何を言ってるんですか!あなたが先ですよ!!」
怒鳴った潔高はが手にした包帯を奪い取った。
普段の潔高の温厚さに慣れているだけに、まるで豹変したようなソレには面食らって身動きを止めた。
そんなの様子に気付いていない潔高は、出血が未だ止まらない左手を取った。
「巻きますから、じっとしていて下さい!」
「・・・止血も兼ねてキツくお願いします」
「分かりましたよ!」
たまには同期から怒られる日もあるよねって妄想
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2021.10.29