深夜。
高専の医務室のドアが荒々しく開かれた。

ーーガラッ!ーー
「家入さん!」
「おう、報告は受けてる、早くそこに横にしてやれ」
「お願いします!」

補助監督であり、後輩でもある潔高にそう言えば硝子は横にされたもう一人の後輩を見下ろした。
処置台の上には潔高に背負われ運ばれてきた、血塗れで動けないが気を失っていた。



















































































































ーー拐かしーー




















































































































あぁ、久しぶりに見た。
またあの夢だ。
あの人が目の前に立っている。

『ーーーー』

何かを言ってくれているのに、何も聞こえない。
覚えているはずなのに、もう思い出せないあの人の声。
もう一度言ってくれと言っても、こっちも声が出ない。
そんなこちらの様子を見てあの人が悲しそうな表情を浮かべて背を向けた。

『・・・』

あの人が、離れて行く。

『・・・だ』

そっちに行ってはだめだ。

『・・・だめ』

あなたには待っている人がいる。

『だめです』

あの人達があなたを待ってる。

『・・・行かないで』

動かない足を踏み出す。
やっと動き出せた歩みを一歩一歩、歩幅を広くしその背中を追った。
届く。
掴めそうなひらひらと逃げる裾に懸命に手を伸ばし、そしてーー

『待って!!!』
「おー、びっくりした」

突然、届いた声に目を開ければ見覚えのある天井に消毒薬の匂い。
高専の医務室だ。
自分が今いる場所が分かったようなが視線をずらせば、ベッドの横に座っていた最強呪術師がいつもの目隠しをしてこちらを見下ろしていた。

「今回は派手にやられたらしいね。コテンパンなんてザコいw」
「ごじょ、先輩・・・」

まだ夢から覚めていないのか、視線が定まらないのか、小さく嘆息したは再び目を閉じた。

「・・・ええ、油断しました」
「素直ちゃんかよ、怖っ」
「・・・津美紀ちゃんと、恵くんに・・・明日、行けないって・・・」

最後まで語られること無く、再びは意識を失った。
と、その時。
休憩から戻ってきたらしい硝子がタバコを咥えて医務室へと戻ってきた。

「なんだ、来てたのか」
「何しろ後輩思いのGLGだからね、僕ってばv」

けたけたと笑う同期を華麗にスルーした硝子は備え付けられた椅子へと深々と腰掛ける。
パソコンで書類を作成し始めた後ろ背に構ってもらえなかった悟は問うた。

「相手は呪詛師だったって?」
「あぁ、すでに拘束されて尋問中だ」
「よくもまぁ、こんなんで捕まえられたね。そんなにスゴ腕だったんだ?」
「・・・お前、伊地知から報告聞いてないのか?」

呆れたように振り返った硝子に、可愛くもない長身から首を傾げて返される。
本当に聞いていないらしいその態度にパソコンの画面に戻った硝子は仕事をしながら続けた。

「呪詛師は2級レベルで大した相手じゃなかったらしい。
の怪我はその呪詛師が人質を殺そうとした時に庇ったためだ」
「うわー、ほっときゃよかったのに」
「そうだな」
「2級に足元掬われるって、タルんでんじゃねぇの」

悟の言葉にキーボードを打つ音が途切れた。
しばらくしてタバコの火を消した硝子の手元から軽い音が再開され、プリンターが動き出すと印刷された書類を手に立ち上がった。

「そうだな、相手にした呪詛師が呪霊操術使ってなければ、あいつももしかしたら怪我してなかったかもな」
「・・・」

それだけ言い残し、硝子は医務室から出て行った。
書類の提出に行ったようだったが、悟は声をかけるタイミングを失していた。

『・・・待って』

小さく呟かれた、小さな願い。
包帯が巻かれた腕の先には、未だに悟の裾が掴まれたままになっていた。
振り払うことができない、緩やかな『呪い』
誰に対しての願いなのかが分かり、込み上がる苦い思いに自身の言葉が藪蛇となったことで悟はため息をついた。

「はぁ、未練がましい奴」






























































ーー鞭打ち
 「硝子さーん、めっちゃクラクラするんで紹介状ください」
家「お前、輸血必要なほど今回そんなに失血してなかったぞ」
 「えー、でも頭痛いですよ?」
家 「(デコピン跡)・・・湿布貼っとけば十分だ」
 (「怪我人相手にあいつは人でなしクズだな」)



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2021.10.29