ーー忘却シークエンスーー

































































高専での片付けが終わり、長い階段でぼーっとしていたの背中に声がかかる。

「よー、おっつー」
「お疲れ様です」

そこには自身の先輩であり、呪術界・最強である五条悟が立っていた。
肩越しの挨拶だけ済ませるも、なかなかその人は後ろに立ったまま立ち去ろうとしない。
自分に用だろうかと黙って待ってみるも、向こうからそれらしいアクションもない。
周囲を探っても、他の気配が無かったことでは悟に振り向くことなく問うた。

「五条さん」
「ん?」
「どうして報告しなかったんですか?」
「何が?」
「私があの人と会っていたこと、気付いてましたよね?」
「まーねー」
「だったら・・・」

12/24に起こった百鬼夜行。
東京・京都で多くの死傷者を出し、首謀者は処理された。
その首謀者と事件の直前に会っていた自分が、呼び出しを受けることなく事件の後始末が終わるなどあり得なかった。
何より、後ろの人は普通に報告するだろうと思っていたこともあって、逆に何もないのが不思議でしょうがなかった。

「あいつさ、結構お前の話ししてたんだよね」
「・・・は?」

思わず振り向くも、悟は先ほどと同じ夕陽に向きの後ろに立ったまま続けた。

「聞く話どれもこれも、別人じゃね?って思ってウケてたけどさ」
「・・・」
「優しいだの、寄り添えるだの、弱さを受け入れて進もうとするだの、鳥肌たったっけ」
「それは鳥肌ですね」
「一回さ、冗談で『好きなの?』って聞いたら、『秘密v』ってきっしょい笑顔で返された」
「そうですか」
「お前はどうだった?」
「・・・私は3人でつるんでる先輩達を見てるのが好きでした」

素直にこぼせば、背後から固まった気配が届く。

「・・・ガチで返すところじゃねぇーつうの」
「冗談ですよ」
「あっそ」

あっさりと引き下がった悟は、ずっと立っていたの後ろから離れ、階段を下り始めた。

「ま、あいつが気に入ってた後輩との別れに水差すのは主義じゃないってだけ。
最強・五条サマは気遣いも最強なの」
「私情とはあなたらしくない」
「違うよ。先輩からの温情」

じゃね〜と、軽快に語った悟は後ろ手を振り立ち去っていく。
その背中を見送り、はうなだれ大きくため息をついた。

「はあぁ・・・どっちにしても私情じゃないですか」

思い出される、あの屋上での言葉。



















































ーー『私はこれでも結構、君のことを気に入っているんだよ』ーー



















































耳に残る声。
人は声から忘れていくというのを誰かから聞いた気がした。
親友だった人からも同じ言葉を聞き、こんなに胸を抉られるのに、あの鮮明な声を忘れる日が来るのだろうかと、ただ胸中を埋め尽くす虚しさを抱えては悔しげに夕陽の前で蹲るしかできなかった。
































































Back
2021.10.29