ーー新たなお姉さん?ーー









































































































任務へ向かう車内。
待ち合わせ人が進行方向に小さく見えてきた時、悠仁は気になっていたことをハンドルを握る潔高へ訊ねた。

「なあなあ、聞きたいことがあんだけど」
「はい、何ですか?」
「あの人って伊地知さんの彼女なの?」
ーーキキキキキーーーッッ!ーー

人気のない道に車の高い悲鳴が鳴り響く。
同時にそこそこのスピードだったこともあり、ハリウッド映画ばりのドラフトがかまされる。
惰性で反対の座席の窓へぶつかった悠仁は、自分と同じく息を乱している補助監督に叫んだ。

「あっ、あぶ、危ねぇ!」
「い、いいた、ど!な、ななな、にをっ!?」
「死ぬかと思ったわ!伊地知さんこそ落ち着いて!」
「ちょっ!大丈夫!何があったの!?」


車内でのやり取りを知らない、突っ込んできたドリフトを回避したが慌てた様子でやってくる。
しかし、声を掛けた相手方は顔を真っ赤にしている同期、そして本日の任務に共に向かう真っ青顔の新人。
何が起こったか分からない状況だったが、ひとまず車通りはないとはいえ、歩道に乗り上げたまま道路を塞いでいる車を何とかするか、とは運転席から潔高へ声を掛けた。

「えっと。
とりあえず二人とも車から降りて。私が車を停めてくるから」
「いや!それは私のーー」
「伊地知くんさ、私を轢き殺しかけといて拒否権ないから。
一旦降りて頭冷やして」
「・・・はい」

有無を言わせない指摘に素直に車を降りた潔高は悠仁と共に車を降りる。
スムーズに車が発進し、近くへと駐車される様を見ながら悠仁は肩の力を抜くように盛大に息を吐いた。

「うわー、マジでビビった。伊地知さん大丈夫?」
「は、はぁ、とりあえず大丈夫です・・・」
「んで?違うの?」
「な!何でそんな話になったんでしたっけ!?」
「や、単なる興味っつーか。
身近にいる呪術師って、五条先生とナナミンしか知らなかったなぁーって」

悠仁の言葉にやっと落ち着きを取り戻したのか、潔高はメガネを押し上げ小さく息を吐いた。

「彼女は私の同期ですよ。私達は七海さんの一つ下でしたから」
「マジか!同級生だったんだ!」
「他の術師の方は、高専の外に住んでいるのが大多数ですから、なかなか学生とは顔を合わせないですしね」
「え?じゃぁあの人は?」
「彼女は医学知識もあるので家入さんのサポートによく高専に呼ばーー」
「なぁーに?私の話?」

車を留め終えたが二人の会話に混ざる。
そんなに悠仁は人懐こい笑みを返した。

「うっす、伊地知さんと同級生だったんっすね」
「ええ、そうですよ。
先日ぶりですが改めてはじめまして。です」
「この前は手当てあざーす!
虎杖悠仁っす!よろしくお願いしゃっす!」
「こちらこそよろしくです。伊地知さんから余計なこと聞かされてないですか?」
「今のところ面白い話は何も。何か教えくれるんっすか?」
「んー、任務が無事に終わった後なら、話そうかな」
「っしゃ!」

一人気合いを入れる悠仁を隣にしながら、は隣に控える潔高に車のキーを差し出した。

「伊地知さん、この後五条さんの仕事(甘味のお使い)片付けてきていいですよ。
こっちは3,4時間で何とかなると思いますから」
「しかし・・・」
「私達のこと待ってたら大変でしょ?」
「・・・分かりました。終わったら連絡してください」

予定を事前に把握していたらしいの言葉に、潔高は僅かに逡巡したが、迷った末、素直にキーを受け取った。
潔高を見送り、ヒラヒラと手を振っていただったが隣から刺さる視線に気付き首を傾げた。

「どうしました?」
「いや、同級生なのに呼び捨てじゃないんだなあって」
「今は仕事中ですからね、最低限の線引きですよ」
「へー、学生の頃は何て呼んでたんすか?」
「私は君付けで、向こうはさん付けかな」
「え?呼び捨てじゃなくて?」
「言われてみれば・・・呼び捨てにしたの任務で首が飛ばされそうな時くらい、だったかも」
「・・・え」

さらりと告げられた不穏な暴露話に思わず固まった悠仁だったが、はそんなこと気にせずこれから向かう山道へと向いた。

「さて、対象はこの山道の先、約1k先にあるお社です」
「押忍!」
「帳を下ろしますね。
『闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え』」

指を立てたの言葉が終わると同時に帳が下りる。
片手を下ろしたは、準備完了とばかりに悠仁に向いた。

「これで呪霊は外に出れないので、思う存分やって問題無しです。
ご質問は?」
「はい!さんはナナミンの代理って聞きましたけど、どんな術式使うんですか?」
「・・・」
「あ、すんません。怒らーー」
「違う違う。説明不足の君の先生に怒り心頭なだけだから」

表情が固まってしまったことで、怯えた悠仁にフォローを入れる。
本当に必要な説明をしない問題児にぐったりしていたが、話が進まないとはざっくりと説明する。

「私は中長距離タイプで、虎杖くんの前衛なら私は後衛。
自分で下ろした帳内なら全て射程範囲、他の人が下ろした帳でも目視できるならまぁ狙えるかな」
「・・・」
「とはいえ、今回の任務は3級が複数ないしいても2級相当らしいから問題ありませんよ。
ただし、終わるまで油断は禁物なので気を抜かないようにしてください。
一応、五条さんからは虎杖くん一人でどこまでできるかを見るようにと言われてるので、基本私は手を出しませんが危ないと判断したら即祓うのでよろしくお願いしますね」

つらつらと語り終えるが、予想していた反応がない事では固まった悠仁に向け首を傾げた。

「あれ?一気に話し過ぎましたか?」
「いや・・・初めてマトモな任務スタートだなーと思って・・・」
(「七海さん、どんな教え方を・・・」)

唯一尊敬する先輩の姿が思い浮かぶ。
しかし、初対面に対してはなかなか受けがよろしくない見た目、初見では分かりにくい気遣いでは自主的に誤解を生んでいるとも言える。
とはいえ、先日の任務では命を預けた死線を越えていたならもうその辺りの誤解はなく、単なる感想なのだろう。
は気を取り直すように咳払いすると、再び目的地へと目を向けた。

「よし、では行きましょうか」
「応!」
































































































2時間後。
任務は恙無く終了した。

「終わったぁ!」
「お疲れ様でした、怪我はありませんか?」
「無いっす!サポートあざっす!」

底抜けに明るい笑み。
悠仁の姿が懐かしい面影に重なり、はふわりと笑った。

「いえいえ、周囲の状況もよく把握できていて良かったと思いますよ。
私が手を出すのも少しでしたし」
「・・・いや、まさかの数攻めで後半焦ったっすけど」
「ふふ、今回は的が小さくなったとはいえ同格級に分裂されちゃいましたからね、仕方ないですよ」
ーーぽんっーー
「よく頑張りましたね。
さて、山を降りて伊地知さんに拾ってもらいましょうか」

が再び先導し、二人は山を下り始める。
任務が終わったからか、行きより緊張が解れたからか、後ろから悠仁が明るい声を上げる。

「なんか、さんって姉ちゃんみたいですね」
「そうですか?それは初めて言われましたよ」
「え?他にどう言われてんすか?」
「んー、今の二年生には妹みたいとか、後輩みたいだとか」
「あーぁ、少し分かるかも」
「分かるんだ」

そこに共感されても正直、反応に困る。
同期ほど幼顔じゃない(酷)し、任務もそれなりな数を捌いているのだからもっとこう、貫禄的なものというか頼り甲斐的なものが少しはあると思っていたが・・・
それが年下や妹ポジというのはどうなのだろうか?
そんなの苦味ある心情などつゆ知らぬ悠仁は、大股で隣に並ぶと太陽のような晴れやかな笑みで問うた。

「でも俺的には姉ちゃんっすね。今度から姉さんって呼んでいいっすか?」
「五条さんのいない所ならいいですよ」
「あ!それ!
学生時代なんすけど、聞いてもいいっすか!?」
「よし、伊地知さんが来るまでなら許可します」
「っしゃ!ナナミンの学生時代って・・・」

当初の予定より早めに任務を終え、雑談しながら補助監督が待っている場所へと戻ってみれば、すでに潔高は戻っており、と悠仁に深々と頭を下げて出迎えた。

「お疲れ様でした」
「お疲れさまっす!」
「滞りなく完了しました。戻りましょうか」
「は、はい・・・」

歯切れ悪そうな潔高の返答に、何かを察したは懐から小銭を悠仁に渡した。

「そうだ、虎杖くん。
喉渇いたでしょ?悪いんですが3人分の飲み物、自販機で買ってきてもらっていいですか?」
「いいっすよ」
「ありがとうございます、伊地知さんと私はコーヒ希望です」
「押忍!」

車が停められた場所からやや離れた場所にある自販機に向かって悠仁は走っていく。
それを見送ったは表情を改め、潔高に本題を訊ねた。

「それで?何かあった?」
「実は急遽、追加の任務がありまして・・・」

訊ねられることを分かっていた潔高は用意していたタブレットをに渡す。
すでに任務の詳細画面になっていたそれをはザッと上から確認する。
それを見ながら潔高は補足するように話し始めた。

「火急案件とのことで回ってきたんですが・・・」
「『回されて』かな、タイミングがヤラしいし。
はぁ、私も上層部に相変わらず目を付けられてるって所かな。あの人の影響とはいえはた迷惑な・・・」
「どうされますか?」
「んー、虎杖くん連れて、ね・・・」

報告から時間が無いところを見ると、等級を報告通りに受け取るのは危険だ。
何より、上層部の思惑も考えれば軽率な行動は取れない。
ならば・・・

「お待た〜。どうかした?」
「・・・虎杖くん、気力体力呪力はどんな残りですか?」
「え?まぁ大丈夫だけど」
さん!?」
「よし。急遽、火急案件が飛び込みました。
これは完全に虎杖くんの担当外任務ですけど、後学のために同行してください」
「了解っす!」
「はい、じゃ車に乗ってくださいね」
「押忍!」

ビシッと敬礼した悠仁は車へと乗り込む。
それを見送ると、潔高は声を潜めまだタブレットの画面を見ているに問うた。

「良いんですか?」
「ま、五条さんなら虎杖くん一人を放り込むところだけど、七海さんの報告を聞く限りリハビリ期間の扱いでと私は考えてるからね」

不安そうな潔高にはふわりと笑い、タブレットを返却する。
そして二人も車へと乗り込むと、元気の良い声が出迎える。

「はい、姉さんのコーヒーね。ほい、こっちは伊地知さんの分」
「ありがとうございます」
「いただきます」



























































ーー1級案件でした
 「やー、これだから火急案件は報告とは違いすぎて嫌ですね。等級調査が甘過ぎって報告してやります」
虎「・・・」
 「虎杖くん、怪我はありませんか?」
虎「や、はい。アリマセン」
 「?どうかしましたか?」
虎「いや、俺近接なら自信あるって思ってたけど、姉さんの戦い振りみてちょっと調子こいてたなって・・・」
 「学生時期からそんなに謙遜しても良くないですよ?虎杖くんはちゃんと動けてましたし」
虎「いやー、中長距離とか言って最後、近接で無双だったし、服汚してねぇし・・・」
 「ま、昔に散々ザコ呼ばわりされたお陰もあって近接もそれなりに鍛えましたからね。
  心配しなくても虎杖くんならあっという間に私程度追い越しますよ」



ーーウワサの真相
虎「先輩、どうして姉さんが妹ポジなんすか?」
真「姉さんって誰だよ?」
虎「伊地知さんと同期のさんっす」
真「は?あいつはどう見ても妹キャラだろ。な?」
パ「疑いの余地なしだな」
棘「しゃけー」
虎「いや、この前任務一緒に行ったんすけど、超丁寧に説明してくれて、サポート完璧で、誰に対しても礼儀正しくて面倒見良くて、って。
  完璧姉さんじゃないっすか?」
真「お前、高専来てる時のあの人こと知らねぇだろ?」
虎「え?知って・・・あ、無いかも」
真「あいつな、何も無いところでよくすっ転んでな、何度パンダと棘に助けられたか知らねぇぞ」
パ「だな」
棘「しゃけしゃけ」
虎「・・・マジか!」
真「任務だと不思議とそんなドジっ子が無いの逆にウケるよな」
パ「真希はよくからかってたしな」
棘「高菜ツナマヨ」
真「棘は押し倒されて顔真っ赤にしてたろ」
棘「おかか!」


 「くしゅっ!」
七「風邪ですか?」
 「いや、そんなはずは・・・五条さんの悪巧みネタにされてるのかもしれません」
七「有り得ますね」










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2023.06.11