寝耳に水。
本当にそうだった。

「・・・え」
「そんな・・・」

たった今受けた報告に一年生のと潔高は現実を受け止めきれないでいた。
まだまだ残暑厳しい季節だと言うのに聞かされた瞬間、恐ろしく冷たい手で内臓を掴まれたような、酷く不快な気分になった。
高専に入学し5ヶ月。
任務をこなし、先輩を亡くし、未だ傷心が癒えないなか届いた一報に足元が崩れ落ちそうな錯覚を覚えた。

「言った通りだ。
非術者大量虐殺・逃走した罪により本日より元特級・夏油傑を呪詛師とし、今後まみえた場合は処刑を認める」
「・・・」
「・・・」











































































































ーー選択ーー











































































































凶報から一週間。
休講のまま時間だけがズルズルと無為に流れていく中、じっとしていることもできず先日の負傷で鈍った勘を戻そうと射撃訓練を行っていたは視線の先の的を狙い引き金を引いた。

ーーパンッ!ーー
ーーズキッーー
「っ!」

引き金を引いた反動が、先日の任務で負った治りかけの肋に響き思わず体勢を崩し壁にぶつかってそのまま崩れ落ちた。
蝉の鳴く声が煩い。
疼痛に短い息を吐き痛みをやり過ごす。
そして再開しようと立ち上がろうとしたが、床についた手はそのまま力を失い、壁に肩を預けたまま長く息を吐いた。

「はぁ・・・」

何が悪かった?
何ができた?
どこで間違った?
不毛と分かっているのに、考えずにはいられない。
だが、結局何もできなかっと、という結果の堂々巡りにツンと鼻の奥が痛くなった。

「っ・・・」
「ザコな病み上がりのくせに何してんの?」

今一番聞きたくない無神経な声。
いや、どう声をかけていいか分からない親友を失ったその人がきしむ床を歩きながらやってきた。
この一週間、なるべく避けていたというのに何しに来たんだ。
足を運んできた悟へ視線を向けもしないに悟は更に続けた。

「お前、まだ安静って硝子に言われたんじゃねぇの?」
「単なる気晴らしです。何か用ですか」
「単なる散歩」

ならお願いだからどっかに行ってくれ。
この人の声を聞いていると、嫌でも思い出してしまう。
自分が3人で並んで歩いているあの光景が好きだったことに、高専に残された2人が傷ついてるのに自分が何もできないことに。

















































ーー『君は呪術師として、やっていけそうかい?』ーー

















































あの問に答えていたら、3人は今も一緒に歩いていたのだろうか?
今、同じく問われれば答えてしまうかもしれない。

(「無理ですよ・・・」)

乗り越えようとした。
自分が傷付いても、友が死しても。
でもこんな別れまで突きつけられては、もう自分の選択が間違っているのか正しいか分からない。

「はー、才能無ぇとこんなのに頼んのね〜」
「・・・返して下さい」
「立てもしねぇのに生意気言うなっつーの。んなの楽勝じゃん」
ーーパシュ!ーー

悟が引き金を引いた弾は、的から大きく外れ壁へとめり込んだ。
宣言が外れた当人は、不服気に口端を下げた。

「・・・下手くそ」
「うるせぇ病み上がり」
「お手本を見せましょうか?」
「昨日、傑に会った」
「!」

突然の言葉に、うなだれたままのは目を瞠る。
しかしどうしてこのタイミングで、どうしてこの人から語られるのかが分からなかった。

「なんで・・・私なんかに、教えるんですか・・・」
「硝子から言われた」
「事実なら夜蛾先生は口止めしたはずです、何情報漏らしてるんですか」
「結論、あいつは敵。今度会ったら殺し合いだな」
「・・・」
、お前呪術師向いてねぇよ」
「・・・」

銃を置いた悟は静かに語った。
その言葉に返す言葉もなかった。
でも、自分に残されているもう一つの選択の道を示されたようでもあった。

「・・・・・・は、今頃気付いたなんて最強とか言ってるくせに遅過ぎです。
そんなこと、あなたに言われるまでもなくとうの昔に気付いてましたよ」

そう鼻で笑ったは壁に寄りかかり、長く息を吐いた。
分かってた。
先輩達、特に特級の肩書を持つ冗談みたいな実力者と比べたら自分なんて地べたを這いずるような存在だということも。
それでも・・・

「五条先輩」
「あ?」
「私は、呪術師になります」
「こっちの地獄にお前なんかが耐えられんのかよ」

挑発するような悟の言葉に、ゆっくりと立ち上がったは置かれた銃を手に取り、再び遠くの的を狙った。

ーーパンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!ーー

全弾撃ち尽くし、空になった弾倉を外したは長く息を吐くと、初めて悟と正面から向き合った。
泣き腫らした赤い目元、それでもただ真っ直ぐにサングラス越しの六眼を見据え口を開いた。

「私は、私に出来る事を精一杯やって足掻いてみるだけですから。
失礼します」

会釈を返したは悟の横を通り過ぎ離れて行った。
誰も居なくなった射撃場で、先程までが狙っていた的を見れば、全弾、急所と言える脳天と心臓を撃ち抜いていた。

「は!可愛くねぇイカれた後輩だな」




























































ーー怒られた
家「よ、。散歩にしては長かったな」
 「はい。ちょっと気晴らしに外の自販機まで散歩に」
家「ほー、散歩か。硝煙の匂いつけてか?」
 「途中で射撃場を覗いてみたくなっちゃって」
家「なら腰に下げた詰まってるはずの弾倉、見せてみろ」
 「・・・ごめんなさい」
「分かったらとっととHOUSEだ」



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2021.10.29