ーーパパンッ!パンッ!ーー

雑居ビルに乾いた音が響く。
全弾撃ち込んだが、ソレは痛みにうねるように動くだけだった。
一押し足りずなことに、 は眉を顰め腰元からナイフを引き抜き地を蹴った。

「悪足掻き」
ーースパンッーー

脳天らしい場所から両断すれば、耳障りな残響を残し呪霊は消えていった。
最後の一体を祓ったことで は帳を上げ、任務完了の一報を入れる。
そして懐へスマホを戻そうとしたとき着信で震えた。
追加の任務なんてゴメンなんだけど、と思いながらげんなりとしながらも再びスマホを取り出せば珍しい名前が画面に現れていたことで、すぐに通話ボタンを タップした。

「はい、 です。
珍しいね、恵くんからかけてくるなんて。何かあった?」
『・・・』
「恵くん?」
『・・・ 、さん』

彼らしからぬ動揺を隠せない声。
只事でないことを察した はすぐに呪具を抱えると駆け出した。

「今、学校だよね。
30分で着けるから、深呼吸して、説明できる範囲でいいので聞かせてもらえる?」

ゆっくりとした語調で話しながら、可能な限り足を早めた は、雑居ビルを一気に駆け下り、待機した車へと乗り込んだ。

















































































































ーー無二ーー
















































































































ーーガラッ!ーー
「恵くん!」

荒々しくドアを開け、その名を呼ぶ。
と、中に居たらしい保健医の先生から冷ややかな視線が返される。

「ちょっと、部外者はーー」
「あー、すみません。
伏黒くんの身内の者です、医療関係者でもあるので少し大目に見てください」
「は、はぁ・・・」
「あとはこちらで搬送の手配をしてますので、外に待機してる者に今分かってる状況を伝えていただけますか?」

説明が面倒で適当に話を盛って部外者を追い出す。
そして、保健室の奥へと足を進めた。

「恵くん」
「・・・」

そこには、ベッドで眠る津美紀の横で項垂れる少年が座っていた。

「恵くん、待たせてごめんね」
「・・・ さん」

腰をかがめ、恵と視線を合わせた が話しかければやっと気付いたような恵が憔悴した表情を向けた。

さん、津美紀が・・・いきなり倒れて!呪いの気配が、オレじゃどうにも出来なーー」
「うん。よく堪えたね、まずは少し落ち着いて。
もう高専で専門の人を待機させてる、私も可能な限り診てみるから」
「・・・」
「だから、まずは恵くんは落ち着こう。
式神も戻して大丈夫、不安ならせめてどっちかの子だけでも戻しておいて」
「・・・はい」
「うん。ありがとう」

やっと返事を返した恵に、抱きしめていた は離れると静かに眠るだけのような津美紀へと近付いた。
禍々しい残穢が絡んでいるのは見えたが、それ以外のおかしいところがなかった。

(「何だ、この妙な呪い・・・」)

人の意識を奪うだけなんて有り得ない。
呪いの何かの副作用で意識が奪われていると思った方が自然だ。
が、周囲に呪いの気配はない。
何より津美紀に付き添っていた恵がそんな気配を見逃すはずがない。

「恵くん」
「・・・はい」
「ちょっと津美紀ちゃの服脱がせたいから、少しだけ外してくれる」
「分かりました」

素直に退場してくれた隙に、 は脈拍やら可能な限りの視診を行う。
しかし、原因がまるで分からなかった。

(「これは私じゃお手上げだな。
単純な治療じゃない辺り硝子さんに手に負えるかも微妙かもしれない・・・」)

唯一分かるのは、額に浮かんだ呪印。
初めて見るものだった。
これはさっさと専門家の手を借りた方が早い、と は待機している同期に電話をかける。

「お疲れ様です、 です。
ええ、高専に運んだ方がいいです。
硝子さんにはすでに一報入れているので搬送車を校庭まで入れてください。
いや、他の人員は要らないです、呪霊の方も問題無いのでなるはやでお願いします、では」

用件を済ませた は、廊下で待っていた恵を呼び津美紀を高専に搬送する旨の説明をする。

「ごめんね、私じゃ力不足だったから高専に運ぶ手配したから」
「・・・そうですか」
「一緒に乗れるから鞄とか取ってーー」
「いいです、ここで待ちます」

キッパリと断った恵の視線は再び津美紀へと注がれる。
その横顔は、いつかの幼い頃と変わらない。
自身の無力さと恵の心情に、 はただ小さく呟いた。

「そっか」






































































































高専に到着し、津美紀は個室の医務室へと運ばれた。
待機していた硝子に は自身の確認したことを説明すると、硝子の表情に苦味が走る。

「これは手に負えないぞ」
「・・・そうですか」
「反転術式かける負傷でもない上、恐らくこの呪いは『マーキング』なんじゃないのか?」
「他の場所で呪われて、何かの条件が揃ったから発動したってことですか?」
「そうでもないと、その学校に呪霊が湧いてるはずだろ」
「でも、報告じゃ津美紀ちゃん以外の同じ症状の子は居ないって話でしたよ?」

高専に戻るまでの間に、津美紀が卒業した同じ中学の同級生に対してざっくりとした聞き取り調査は終わっていた。
元々、協調性や社交性も高いこともあり人付き合いにトラブルは持っていない子だ。
あまり一人で出かけることもしてないこともあり、硝子の言う通りなら必ず他に同様の症状が出てもおかしくない。
の言葉にさらに考え込んだ硝子は僅かに声をひそめた。

「あまり考えたくないが、この子を狙った呪霊または呪詛師によるピンポイントのマーキングの発動が行われたか、だったりしてな」
「ちょっと・・・あんまり不穏な話ししないでくださいよ。
それじゃあ面倒絡みの線も出てくるじゃないですか」
「御三家が非術者に手を出すとは思えんが・・・可能性は考えておくべきだ」
「・・・」
「ま、あとはうまく説明しておいてくれ」

ポンッと肩を叩かれ硝子は を置いて歩き出す。
いきなりお鉢が回された当人は予想外過ぎて声が上擦った。

「ぅえ!?私がですか!?」
「お前以外居ないだろ」
「いやいや、受け入れ先の手配とかーー」
「私でやっておいてやる」
(「うわー・・・」)
「やー、でもやっぱりこういうのは医師免許を持ってる方から説明の方がーー」
「呪いを引き受けるかも知れないのに軽率に反転術式かけたのはどいつだ?」
「・・・ワタシデスネ」

ずいっと距離を詰められ、顎下を指先でツツツと撫でられた上、事実を突かれればカタコトで諸手を挙げた。
仕方なく、言われた通り恵を呼んだ は硝子からの話を伝えた。

「硝子さんの話だと、今は命の危険はないって。
ただ呪いによって意識が戻らない状態ってらしいの」
「・・・津美紀は、ずっと・・・」
「私はこのままにするつもりはないよ」

不安を消すように、キッパリと は告げた。

「呪いをかけた呪霊か呪詛師を消しちゃえば直ぐ目を覚ますよ」
「・・・そうですか」
「うん。残穢も覚えたし、私もそいつら見つけたら速攻祓うから。
じゃ、受け入れの準備が整うまで少し休んでてね」
「はい・・・」

後ろ手に扉を閉めた は小さく息を吐いた。
自身で言っていて分かっていた。
原因不明ならこれ以上の手立てがない。
手立てがないものを祓うなどと簡単に言うことが、どれほど無責任なことかというのも。
それでも痛々しいあの姿を見ては、気休めで陳腐な詭弁でも慰めの言葉をかけたかった。
しばらくそっとしておこうと、 は硝子へと報告を済ませ、再び部屋へと戻る。
すると、出張で不在のはずの実力者が居り、こちらへと気安く片手を上げてきた。

「よっ」
「五条さん・・・いつ戻られたんですか?」
「ついさっき」
「そうでしたか・・・」

なら、一通りの報告も聞いている事になる。
と、 の視線の先には、ベッドの横で眠るような恵がいた。
しかしこんな状況で眠るようなことをする子ではない。
誰がソレをしでかしたかがわかり、 は呆れたように嘆息した。

「荒っぽい事しますね」
「どうせ休みゃしないじゃん、恵は」
「唯一の身内が倒れれば仕方ないですよっと」

抱き抱えた は備えられたソファーへと恵を横たえた。
憔悴している表情に、自身が何もできない無力さにギリッと奥歯を噛み締めた。

「手間かけたね」
「・・・不甲斐ない私では力及ばずでかけれる手間もありませんでしたよ。
五条さんでも無理ですよね?」
「無理。
これは大元を叩かないと無理なやつだもん」
「ですよね・・・」

は上着を脱ぎ、恵に被せると深々とため息をついた。

「はぁ・・・久々ですよ、ここまで腹が立ったのは」
「へー、どれぶり?」
「教えません」
































































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2021.10.29