雪が舞いそうな初冬。
廃墟の一角からこちらへと距離を詰める死をもたらす呪霊が迫る。
だが心は漣一つ起きず、呪力が一番濃いそこへ照準を定め細い指が引き金を弾いた。
ーーパンッ!ーー
『オオオオオオオォ・・・・』
狙い違わず呪力を込めた銃弾が目標を撃ち抜き、呪霊は耳障りな断末魔を残して消えた。
予定の任務を終えたが、念のため周囲を見回し他に呪霊の気配はないかを探る。
「・・・」
気配はない、任務完了だ。
呪具をホルスターに戻すと帳を上げ、は小さく息をついた。
「ふぅ・・・ん?」
と、しまっていたスマホが着信の振動を告げる。
誰からだろうと画面を見れば、珍しい文字が並んでいたことですぐに通話ボタンをタップした。
「はい、です。
・・・ええ、ちょうど任務が終わったところでしたから大丈夫ですよ。
そちらは風邪はひいてませんか?・・・そうですか、それは良かったです。それで私に何か用事でしたか?」
ーー未来へ向けてーー
12月。
呪術高専では周囲の山々の紅葉はすっかり終わり、朝晩の冷え込みが厳しくなりちらほらと霜も降り始める。
そんな中、その日の授業を終えた一年生3人は共用スペースの広々とした部屋でごちそうを囲んでいた。
中心にはケーキ、周囲にはピザにフライドチキンにポテチにコーラ、ジュース各種etc…
言うまでもなくバースデーパーティーである。
主役となっていた恵にチープな紙製の円錐形の帽子と『本日の主役』というたすきを同級生に半ば強制でつけられたが、嫌々ながらの写真を撮った後は即座に外された。
その後、文句が上がるもすぐに若者の意識は卓上の食事へと移りしばらく経った頃、入り口のドアが叩かれた。
ーーコンコンーー
「お、やっと来たわね」
「誰か他に呼んだの?」
「おい、まさかあの人じゃねぇだろうな」
対照的な反応を見せる悠仁と恵に、野薔薇は企みを隠さない声で芝居がかったように腕を組んだ。
「ふっふっふ〜、野薔薇様が招待したスペシャルゲストの登場よ。感謝しなさい野郎ども!」
言うが早いか、野薔薇の手が勢いよくドアを開ける。
そこには両手に大きな荷物を抱えていたが立っていた。
ドア越しに野薔薇の話が聞こえていたのか、何か上手いことを言うべきかと逡巡している。
が、某軽薄を地で行く男ではないため、その何かは咄嗟に浮かばない。
「あー、えーっとね・・・」
「あの人みたいなことしなくていいですよ」
「え、何?なんかすんの?」
期待に満ちるような悠仁を無視して心境を察した恵の言葉に、は素直に諦め月並みな言葉を返した。
「ごめんね、少し遅れちゃった」
「待ちくたびれたわよ」
「運悪く渋滞に掴まっちゃっいましてね」
言い出しっぺの後輩からの指摘は無いことではほっと肩の力を抜く。
大荷物をひとまず下ろし、野薔薇に詫びるとやっと皆の前でふわりと笑みを返した。
「みんな、こんばんは」
「ちわっす!」
「お疲れ様です」
「お疲れ、本日の主役の恵くん」
ひらひらと手を振り、コートを脱ぎながら挨拶を返すの隣では、これでもかとドヤ顔で胸を反らせる野薔薇。
とりあえず騒がしい人の参加とならなかったことに安堵しながらも、表面上は先ほどと変わらない表情のままの恵は、新しいコップに飲み物を注ぐ。
そして身支度を終えたは3人が座るテーブルへと向いた。
「さん、どうぞ」
「ありがとう恵くん」
「気が利くわね」
「伏黒はいつもじゃん」
「ふふ、じゃあ早速といこうかな。はい、誕生日おめでとう恵くん」
「・・・ありがとうございます」
は手にした中で一番大き包みを差し出すと、恵はやや躊躇いながらも受け取る。
早く開けろとやんやx2のコールに一喝を返すと、恵は包装紙を外していく。
大判な箱の蓋を外せば中から出てきたのは、濃いネイビーのチェスターコート。
「おー!冬物のコートだ」
「げ!このブランド何気に高いやつじゃん!」
「・・・」
「これから寒くなるし出かける機会も多くなるしね」
「伏黒、照れてる?」
「けっ、ツンデレかよ」
「照れてねぇよ」
「よーしじゃあ次。
クリスマスは私、出張で東京に居ないから今日みんなにプレゼント渡しちゃうね。
レディーファーストで・・・はい、野薔薇さん」
「やった!ありがとう!何なに?」
「Bluetoothイヤホン最新モデル」
「マジか!」
「使い方はググる方向でよろしくです。次は本日の主役の恵くん」
「・・・いいんすか?」
「もちろん」
今度は両手に収まるサイズの箱が手渡され、包装を外してみれば現れたのは黒い液晶の画面のパッケージ。
驚く恵に、期待が叶ったことを嬉しく思ってかは朗らかに続けた。
「!」
「前にタブレット欲しいって言ってたから、こっちも最新モデルね」
「ありがとうございます」
「最後になりましたが、悠仁くん」
「あざーっす!・・・って、え?」
ーーゴンッーー
「でっ!」
「失礼だろうが」
「いや、だって!この流れでペラッと封筒渡されちゃ仕方なくない!?」
反論した言葉通り、ペラッとした茶封筒が悠仁の手の中で弱々しく揺れる。
しかしBluetoothイヤホン、タブレットの流れて茶封筒一枚というのも納得な反応とも言える。
それを予想してか、の方も苦笑いを浮かべながら悠仁に説明を入れる。
「あはは、本当は野薔薇さんと同じにBluetoothイヤホンにしようかなぁって思ったんだけど・・・ちょうど運良く手に入ったからさ」
「とりあえずさっさと中身見なさいよ」
「はいはい」
野薔薇に急かされ、中身を見れば雄叫びのような感動の声が部屋中に響いた。
「んなあああぁぁぁっ!?」
「るっさい!」
「うるせぇ!」
ーーゴンッx2ーー
再び、容赦ないげんこつが振り下ろされ小気味のいい音が響く。
やられた方の悠仁は猛然とした勢いプラス涙目で振り返った。
「痛っ!二人して酷くない!?」
「叫ぶあんたが悪い」
「時間考えろ」
「だっ!だ、だって!だって!」
「その反応キモいわよ」
「で?何貰ったんだよ」
「見て!見てよ!コレ!!」
「近すぎて見えねぇよ!」
興奮冷めやらぬ様子の悠仁が恵に茶封筒から出た細長い紙を至近距離で見せつける。
そんな悠仁の腕を掴み、恵が見える距離に腕を離した。
と、それまで呆れていたような恵も表情を驚きに染めた。
「!」
「何よ、伏黒も何固まってん・・・んなあああぁぁぁっ!?」
覗き込むように見下ろした野薔薇も叫ぶ。
飛び込んできた文字は、某海外有名女優の収録イベントチケット。
想定以上の3人の上々な反応には嬉しそうに微笑んだ。
「良かった、喜んでくれたなら何よりです」
「ね、姉さん・・・オレ、今日死ぬの?」
「せっかくなのでそのチケットの来日日までは任務頑張りましょうか」
ーーガバッ!ーー
「姉さあーーーん!ありがーー」
ーーゴンッx2ーー
「い"っでっ!」
「「離れろ」」
喜びを爆発させたような悠仁がに抱きつけば、三度鈍い音が上がる。
やんやと盛り上がる中、が一応の注意事項を伝える。
「一応、その一枚で3人までOKの一筆書いてもらって・・・あー、みんなで楽しんできてね」
興奮しすぎてこちらの声は聞こえているか謎だ。
あとでメッセでも残しておくか、とそれ以上の言葉を止めたは紙コップを傾ける。
しばらくして、チケットを手に目を輝かせている上京組2名を放置した恵はの隣に腰を下ろし尋ねた。
「どうやって手に入れたんですか?」
「んー、一言でいえば人脈だね。テレビ局でたまたま見える人から受けた任務繋がりで、かな」
「人脈ってより、さんの人徳じゃん」
「いやいや、五条さんならコネで手に入るだろうし。みんなの日頃の行いが巡り巡ってだよ。よかったね」
「でも、何でオレがファンだって知ってたんすか?」
「面接で開口一番宣言してたのを学長から聞いてたからね」
ようやく会話が成り立つ程度に興奮は収まったらしい皆に答えると、最後にこの中で引率者になるだろう隣に座る恵にはふわりと笑い返した。
「みんなで楽しんできてね」
「・・・うっす」
その後、目的を終えたはお暇しようとしたが、盛り上がってる写真を見たらしい一年担任が参加する騒がしい連絡が来たことで、皆はコンビニへ追加の買い出しへと行くこととなった。
先を歩く悠仁と野薔薇の先行組からはなんであいつのために云々な文句(片方のみ)が流れるように続いている。
それより少し後ろに帰るついでに財布役を引き受けたと早速、真新しいコートに袖を通した恵が並んで続く。
冬の済んだ空気に、星はいつもより輝きながら一行を見下ろしていた。
「賑やかなのはいいけど、そろそろ声量抑えてね〜」
「「はーい」」
「さん」
「ん?」
「これ・・・ありがとうございます」
「どういたしまして。そう何度もかしこまらないで良いよ」
「うっす」
の言葉に照れ隠しか顔をマフラーに埋めながら恵はくぐもった声で呟いた。
しばらく夜道を歩けば目的地が近付き、足元をコンビニの明かりが照らす。
と、小走りに足を早めたは振り返る。
歩調がそのままの恵は不思議そうな表情を浮かべた。
「?何んすか?」
「うん、カッコいいね。
そのコート、絶対恵くんに似合うって思ったんだ」
その言葉に恵の歩みは止まる。
コンビニの照明を背負うの笑顔は、眩しくしかし目が離せない。
見つめ合ったのは恐らくわずかの時間だろうそれは、とても長い時間に感じた。
そして顔に熱が集まってくるような気がした恵はふい、と顔背けた。
「・・・どうも」
「伏黒ー!早く選ぼうぜ!」
「
さんは何にするー?」
自動ドアの入り口からかけられた元気あり余る声には振り返った。
「はいはーい。今行ーー」
ーーパシッーー
「行きましょう」
言い終わる前に、すれ違いざまに手を取られる。
僅かに開いていた距離があっという間に詰められ先を歩いていく。
いつの間にか見上げるようになったのはいつからだろうか。
だが自分より大きなはずの歩幅は、こちらが急ぐ必要のない歩調に合わせられてる。
「え、と・・・恵くん?」
「なんですか?」
振り返ることのない、ぶっきらぼうな言い方ながらも、マフラーから見える耳は赤く染まっている気がした。
は小さく口元に笑みを浮かべると小さく呟く。
「ううん、何でもない」
「・・・」
すっかりかじかんでしまった指先は、大きな手の中に包まれ寒さは感じない。
胸の奥に灯るほのかなぬくもり。
それは感慨深さ故かそれとも別の何かなのか、今はまだ名を付けず。
ただ今この瞬間を、共に歩けるこの時間を噛み締めるように握り返した。
「手、あったかいね」
「いつでもこうしますよ」
ーー神出鬼没
釘「あ!これ新商品じゃん!」
虎「どれ買うの?」
「そうだね。あの人も来るなら、とりあえず追加の飲み物とデザートとお菓子かな」
伏「砂糖でも与えておけばいいですよ」
虎「砂糖は菓子じゃなくね?」
釘「どっちかっていえばおやつでしょ」
伏虎「「は?」」
「まぁまぁ、分類は置いとくとして。別に買ってもいいけど、どうせあとですんごい面倒になるよ」
五「いや、そこは後輩としてもっとフォローしてよ」
一年「「「!!!」」」
「はぁ・・・またサボりですか?」
五「ひどい!せっかくケーキ買ってきたのに!」
「ご自身の分だけですよね?」
五「は?流石に恵には一口分けたげるよ」
「流石の使い方」
釘「ケチかよ」
虎「先生、それはひどいと思う」
伏「・・・」(どうでもいい)
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2024.3.12