ーー想いは空回りーー
校庭へ降りる階段の上。
打ち合わせまでの時間を持て余したは、ちょうど組み手の時間だったらしい後輩らの奮闘を観戦していた。
「あ、姉さんだ!」
しばらくして休憩となった時、こちらにいち早く気付いた高専生一年、虎杖悠仁にはひらひらと手を振った。
「こんにちは悠仁くん、休憩ですか?」
「うっす!姉さんはなんで高専に来てんすか?」
「次の任務の打ち合わせですよ」
「そうなんすっすね!お疲れ様です!」
幻覚だろうか、ブンブンと勢いよく揺れるしっぽが見える気がした。
懐かしい記憶を呼び起こすそれに、はふわりと笑う。
と、何かを思いついたのか、先程よりも声を潜めた悠仁はまるで密談でもするようにと距離を詰めた。
「どうかしました?」
「聞きたいことあるんすけど・・・」
「?」
「姉さん、伏黒の育て親みたいなもんって聞いたんすけど、ホントっすか?」
「育て親・・・うーん、そういう大層なものじゃないと思うけど・・・」
悠仁の言葉に昔の記憶を手繰るも、あまり思い当たるような出来事が浮かばない。
というか正直な所、『親らしい』というのがあまりどういうものかを理解できていない気がして、実際にやっていたことを挙げる。
「任務の合間にちょくちょく様子見に行ったり、ご飯作りに行ったりしてたくらい、かな。
五条さんより頻度は高めだったとは思いますけど」
「へー!」
「そもそも恵くんに呪術師として訓練付けてたのは五条さんですし、金銭的にも全部五条さんが面倒見てたので育て親は五条さんの方だと思いますよ」
「うーん・・・なんか、普段の伏黒の五条先生に対する態度見てるとどうもそう見えんくて」
「あはは、それはきっと全面的に五条さんが悪いでしょうね」
恐らくその人との付き合いがまだ浅い悠仁でもすでにそう判断される要因は気付いているだろう。
と、2年生がコンビニから戻ってきたらしく、遠目からこちらに気付き手を振られたことでも笑顔で振り返す。
それを隣で見ていた悠仁はさらに訊ねた。
「小さい時の伏黒ってどんな感じだったんすか?」
「そりゃぁ文句なしに可愛かったですよ。
初対面は小学生の頃でちっちゃかったし、好物作ったときの反応とか素直だったし」
「マジか!」
「一緒にお風呂入った時なんてーー」
ーーゴンッ!ーー
「い"っでっ!」
鈍い音と共に悠仁の頭は前方に飛ぶ。
涙目で後頭部を押さえた悠仁が振り返ると、そこには拳を握り仁王立ちの話題の人物が無表情で立っていた。
「・・・」
「ふ、伏黒さん・・・」
「お疲れさま、恵くん」
「うっす。虎杖、今すぐ記憶を消せ。でなけりゃ殴る」
「殴る前に言って!?」
「ごめんね、私もつい話し過ぎちゃった」
「おーい、悠仁。再開すんぞー」
2年生呼びかけで悠仁は脱兎の如く校庭へと駆け出していく。
速さを物語る風圧にが感心していれば、入れ替わるように恵が隣へと座った。
校庭では、悠仁が真希との組手が開始され早々に転がされている。
容赦ない応酬にが苦笑いを浮かべていれば、恵が口を開いた。
「虎杖と何話してたんですか?」
「んー?私が恵くんの育て親なのか〜って話しで、それは五条さんの方だよって話しを少しね」
「・・・」
再び無言となった隣に視線を移せば、高校生がするに歳不相応なほどの超・不本意顔。
反抗的なそれは少し微笑ましく、しかしそれを言えばもっと不機嫌になりそうな事が分かり、はそのシワをどうにかしようと手を伸ばした。
「ふふ、眉間のシワ残っちゃうよ」
ーーパシッーー
が、伸ばされたその手を掴んだ恵から真剣な眼差しが返された。
「オレにしてみたらさんもですよ」
突然の告白には固まった。
「え・・・」
「というか、あの人より感謝してます」
「そ、そう・・・なんだ」
面と向かって、今までそのようなこと言われてなかったので反応に困りの顔に熱が集まる。
湧き上がるこの感情は何と称されるものだろうか。
身の置き場がなく、落ち着かないそれに翻弄されるようには思わず顔を背けた。
だがそんなの反応が予想外だったらしい恵の方も面食らった表情を返した。
「なんでその反応なんですか」
「あ、いや・・・だって、ちょっと驚いて・・・」
動揺を収めるようと口元を手で覆ったは顔を背けたまま応じる。
そんなを見ていた恵だったが、意を決したように掴んだ手を握る力を込めた。
「でも、これからは違いますから」
「うん、そうだ・・・え?」
「隣に立てるように、もっと強くなるんで待っててください」
「・・・うん?」
続いた言葉に呆気に取られただったが、恵からの勢いに押されるようにどうにか返事だけを返す。
だが意味する真意を質そうとするもその前に、今度は恵が次の相手に呼ばれたため、校庭へと下りていった。
先ほどとは打って変わって冷静になっただったが、打ち合わせの時間が近付いたこともあり腰を上げた。
そして、道中では先ほど言われた言葉の意味を理解しようと反芻するも、首は傾ぐばかり。
「・・・」
(「いや、十分に恵くんは強いと思うんだけどな」)
内心首を傾げるしかなく独白したは、ひとまず打ち合わせを済ませるかと足を早めた。
ーーそして歩きだす噂
「んー・・・」
新「どうかしたんすか?」
「新田さんさ、男の人から隣に立つから待ってろって言われたら、どう受け取ればいいと思います?」
新「え?」(「こ、これは!」)
「その人は十分強いしそんなこと思う必要もないので・・・」(「そもそも術式の幅は向こうが上だし」)
新「ど、どうするんっすか?」(「恋バナッ!?」)
「私よりもっといい人を選べばって言おうかと思ってるんですが、どう思います?」(「目標は七海さんとかの方がいいだろうな」)
新「ええ!?」
「え・・・そんなに驚きます?」
新「ダメっすよ!相手は
さんを選んだんっすよ!他の奴なんて論外っす!その気持ちは尊重してあげないと!!」(「許されない恋とか激ヤバッ!絶対成就させないと!」)
「え・・・そんなに大袈裟なレベルの話しなんですか?」(「単なる目標の人って話しなんだけど・・・」)
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2023.10.15