ーー琴線ーー
ランニング中、通り雨にやられた
梅雨入りの最中、久しぶりに訪れた晴れ間にせっかく走りに出たというのにツイてない。
単に気晴らしに走りたかっただけなのに。
決して、某先輩から『体力も無いってザコ以下じゃねw』と言われたからではない。
断じて無い。
次の実技実習で三年生と手合わせできる機会があれば、一瞬でもいいからあのにやけた鼻っ柱を折ってやる。
そう考えていた目論見は早くも崩れてしまった。
(「めっちゃ降られたな・・・」)
晴れ間があっという間に雨雲へと変わり本降りになる前に帰ろうかとした矢先にゲリラ豪雨となり、思いっきり降られてしまった。
仕方なく木の下で雨宿りを始めたが、すでに30分が経過した。
まだ止む気配はなく、木の幹に背中を預け目を閉じ雨音聞きながらさてどうしようかと、は考え込む。
(「いつ止むだろ。もう少し待っても止まないなら諦めーー」)
「おい」
響いた声に目を開ければ、雨の中、傘も差さずにこちらを見下ろす某先輩。
自身の術式のおかけで雨に濡れることのないその人は、の装いを見た途端、いつもの腹立つ嘲りを始めた。
「ずぶ濡れじゃん、ウケるw」
「・・・五条先輩、任務だったんじゃ・・・」
「んなもんとっくに終わったっつーの。GLG舐めすぎ」
「はぁ、それはすみませんでした」
相変わらずケンカ腰に絡んでくる悟に気のない返事を返したはそのまま口を噤む。
そんなそっけない態度にむっとした悟は続けた。
「で?水も滴る良い男じゃないくせに何やってんの?」
「ジョギング中に雨に降られたので避難してただけです。
先輩と違って無限持ってないので」
「ふーん。で、雨宿りって?ザコいw」
「・・・」
ほっといてくれ。
というか、用がないなら早く高専戻ればいいのにまだ人のことをおちょくり足りないのか?
迷惑な性格だな、と口にすれば1日じゃ足りないほど絡んできそうなことを心中で呟きながら立ち去ることを待っていれば・・・
「仕方がない!
可愛い後輩のために偉大な先輩が手を貸してあげよう」
「や、結構です」
流れるように即答で断ったに悟は目に見えて不機嫌になった。
「あ"あ"?先輩の厚意はありがたく崇め奉り受け取りやるもんだろうが」
「(・・・暴論)いや、(後が面倒なので)わざわざ
五条先輩に傘持ってきてもらうとか要らないですから」
「はあ?んな事するわけないじゃん」
「は?」
意味が分からず首を傾げれば、悟から差し出された手が目の前に現れる。
「え」
「ほーれ、早く手を出す。イケメンがわざわざーー」
「あーはいは・・・」
面倒になって手を取った瞬間、言葉を失った。
初めての光景が広がっている。
目の前で肌に落ちない水滴が、見えない壁で弾かれて流れ落ちていく。
まさかこの人の術式が他人に対しても使えるなんて知らなかった。
弱い日差しの中、触れようとして触れられない幻想的とも見える光景に目を、心を奪われた。
「どうよ?初めての・・・」
「・・・凄い」
まるで自分が見てきた世界は全くの偽物じゃないかと錯覚した。
手を伸ばしたら、見た事ないそちらの世界に手が届きそうで・・・
はさらに手を伸ばそうとしたが、自身から手が離れそうになったことで、悟は慌てて掴み直そうとした。
「ちょ、手放すーー」
「え、先ぱ!危な!」
離れた手を悟が再度掴もうしたが、その悟の足が池を囲む低い柵へ引っかかる。
このままでは二人とも池に落ちる。
流石に先輩までも巻き込むのは不味い、と最後の良心が働き掴まれた手に力を込め、足元に重心をかけた。
それにより支点から遠心力がかかり二人の位置は入れ替わる。
と同時に雨で濡れた手は簡単にすっぽ抜けた。
ーーバシャン!ーー
・・・ま、こうなるだろうとは予想がついていた。
池から抜け出した濡れ鼠のを目の前に、目の前で悟は腹を抱えて笑っていた。
「がっはははっ!ガチ濡れじゃんw
こんな池で水泳ってどんな神経よ、ひっひひひ!」
「・・・」
(「助けんじゃなかった」)
反論するのもバカらしく、引っ付くジャージの気持ち悪さから早く抜け出したくは嘆息し腰を上げた。
「あー、笑った笑った」
「そりゃ何よりで。じゃ、帰りましょうか」
「無限で雨除けしてあげようかw」
「こんなナリで雨除けもクソもありませんよ」
「わー、ってば、口が悪かったんだね」
けたけたと笑う後方を無視して歩き出す。
顔を上げれば水滴が肌を打つ感触。
自分が知っている世界だ。
「・・・」
それにしても僅かの間とはいえ、不思議な感覚だった。
自分では一生体験できなかっただろう。
日頃からウザいとしか思ってなかった先輩が、まさかこんな事を体験させてくれるとは。
(「初めてだったな、心が震えたっていう感覚・・・」)
ーー帰って
五「たっだいまぁ〜」
「・・・戻りました」
灰「うわっ!
ちゃんどうしたの!?」
七「ちょっ!ずぶ濡れじゃないですか!」
伊「タオルタオル!」
夏「なんで悟は無限で後輩を助けてあげなかったのかな?」
五「勝手に池に落ちたのコイツだし」
家「よし、。まずは服を脱げ、風邪ひくぞ」
七「こんな場所で何させるつもりですか家入先輩!」
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2021.10.29