ーーお人好しーー


















































































































日付が変わった深夜。
かすむ視界を元に戻すように潔高は目頭を押さえた。

「はぁ・・・」
「相変わらずこき使われてるね」
「うわあっ!」
「きゃっ!」

突然かけられた声に声量が大きくなり、その声量に驚いた声が響く。
潔高が振り返ればお互いびっくり顔となったまま、身を固めたが立っていた。

「な!? さん!何をして」
「いや、こっちがびっくりした。
報告書持ってきたから出そうと思ってさ」
「こんな時間に・・・またタクシーで戻ったんですか?」
「こんな時間に補助監督呼び出す鬼畜行為ができる人を見習えなくて」

はい、とから渡された報告書を潔高は受け取る。
しかし時間が時間とのこともあり、さすがの潔高も苦言が出た。

「お気遣いは感謝しますが、誰も居なかったらどうするつもりだったんですか?」
「医務室で仮眠取る予定だった」
「・・・きちんと休んでください」
「んー、明日も任務だし暫くは無理。それより夜食買ってきたから少し休憩しない?」
「・・・ではお言葉に甘えて」

が持ってきた夜食が小さな応接机に広げられる。
何とはない、コンビニで買ってきた味噌汁とおにぎり。
お湯を注いで湯気が立つできたての味噌汁へ口を付ける。

「はぁぁ・・・」
「しみる・・・」

互いの口から出たはもりに、二人は同時に吹き出した。

「20代の台詞じゃない」
「本当ですね」

ひとしきり笑い終え、夜食を食べ終えた辺りで潔高は話を戻した。

「しかし、今日が終われば明日はオフだったはずでは・・・」
「追加が帰りがけに入ってた。
場所が神奈川の山?の方みたいだから移動に時間取られそう・・・」

ポチポチと携帯をいじりながらざっと任務内容を確認したは携帯を閉じ、ソファーに身を投げた。
そんなを見た潔高は表情を曇らせ、眼鏡を押し上げた。

「それは・・・すみません、スケジュール調整をーー」
「んー、良いよ。
他の人もどうせ手一杯だし、伊地知くんが過労死しないなら頑張るよ〜」
「あなたはいつも頑張り過ぎですよ」
「あはは、適当を地で行ってる人に見習わせて」

背もたれに完全に身体を預けているが天井を見上げながらヒラヒラと手を振って返す。
と、上を見ていたの視線が、潔高が座っていた机の上に山積みにやっている資料を捉え視線を向かいの席に戻した。

「そっちこそ、まさかこの量の書類どうにかする気?」
「流石に今日、というか日付が変わってしまったので無理ですけど粗方は終わらせたいですね」
「少しは新人くん達に分ければ良いのに」
「・・・いや、ほぼ五条さんの案件で」
「あ、ごめん(察し)」

その仕事は確かに任せられない。
可哀想過ぎる同期の姿に、なんとも言えない表情を返すしかできない。
だが顔色が良くない潔高をこのまま仕事に戻すのも気が引け、一息ついたところでは思いついたとばかりに口を開いた。

「私、明日の任務の詳細確認したいからその間でも仮眠したら?
確認終わったら声かけるし、気分転換した方が仕事捗るでしょ?」
「そう、ですね・・・じゃあ少しだけ」
「はーい、任された」
「絶対声かけてくださいよ?」
「大丈夫、この手の約束は容赦なく守るの知ってるでしょ?」
「はは、そうでした」

直後、ソファーに背を預け気を失ったように目を閉じた潔高を横目にはコーヒーを片手に潔高の机の上を見た。
報告書の数は少なく、あるのは雑誌の山と付箋とメモ書き。

(「日本の北から南のスイーツスポット一覧、ハズレなしのおみやランキング最新版、話題のインスタ映えカフェ特集、世界で人気カフェランキングマップ付き・・・全然任務と関係無いじゃん」)

同期を酷使している相手にイラッときたは証拠写真取り、その人に教育的指導を下せる学長宛に長文メールを送る。
そして暫くして、約束通りは仮眠している潔高の肩を叩いた。

「伊地知くん、私そろそろ仮眠とってくるよ」
「・・・すみません。どれくらい経ちました?」
「30分くらい。
デスクにコーヒー淹れといたから、残り頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
「ん。じゃ、お人好しもほどほどにね」

ひらひらと手を振ったは部屋を出て行った。
寝ぼけ眼だった潔高は眼鏡をかけ、仕事の続きをしようと机へと戻った。
と、その机には言われた通りのコーヒー。
そして先ほどまでなかった雑誌につけられたコメント付きの付箋。
誰がやったかなど容易に想像がついた。

「はあぁ・・・あなたの方こそお人好しが過ぎますよ」






























































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2021.10.29