4月。
高専に新たな生徒が迎えられ、教室では初々しい緊張に包まれたなか点呼がされた。
「伊地知潔高」
「は、はい!」
「」
「・・・はい」
「ここに居るお前達2人が今年の高専一年生だ。
学生の間は基本、任務も団体行動になる。仲良くするように」
「は、はい!」
「・・・はい」
・・・なんて、初々しさは一名のみの温度差のある高専生活がスタートした。
ーー先行き不安ーー
簡単なオリエンテーションの途中、担任が呼び出しを受け教室を離れてしまった。
がらんとした教室には本日初対面となる男女が取り残されていた。
先程の点呼の際に緊張感満載の返事をした潔高はちらりと隣を伺った。
(「一年生が2人だけ・・・」)
しかも女子、同性以上に気まずさが増した。
ハーフアップしたミディアム、センター分けの前髪を左右に流した横顔は先ほどからずっと目の前の黒板に注がれている。
ちなみに黒板には何も書かれていない。
ボーッと頬杖をついたままの隣へ、潔高は意を決して声をかけた。
「あ、あの!」
「?」
「これから、よろしくお願いします!」
「・・・あぁ、ええ。こちらこそ」
「さんはどうして高専に入ったんですか?」
間が持たず続くだろう話題を繋げれば、ちらりと視線だけを返されただけで再び前を向かれた。
(「む、無視!?」)
「・・・・・・成り行き?」
「え?」
不安になる間を置いて返された一言。
驚く潔高だったが、それに気付いていないのかはその時を思い出すようにゆっくりと話し始める。
「・・・呪霊に殺されそうになって、そこを夜蛾先生に助けられて、呪霊も見えたこともあって入ることに」
「そ、そうなんですね」
「ええ」
「・・・」
「・・・」
間を持たせる目論見が早々に終わってしまう。
次の話題を探さねばと、潔高はあせあせと考え込む。
が、
「・・・伊地知くんは?」
「え・・・?」
「伊地知くんはなんで高専に入ったの?」
終わってたと思った会話が再開され、問い返されると思わなかった潔高は慌てて話し始めた。
「わ、私も一応、呪霊が見えることもあって呪術師を目指してます。
お互い頑張らないとですね」
「ふーん・・・」
(「あ、呆れらーー」)
ーーゴンッ!ーー
ーービクッ!!ーー
単語の返しにショックを受けた瞬間、頬杖から顔を落としたが机に衝突する。
潔高には一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
「・・・った・・・」
「え・・・ええ!?
さん!?」
「・・・えらいね」
「え?何か・・・」
「もう無理・・・」
何事かとあわあわした潔高を尻目に、はそのまま寝息を立てた。
(「寝たー・・・」)
奔放すぎる同期の姿に、この先4年間の高専生活に潔高の不安は増すばかりとなるのだった。
ーー起きてる時は普通でした
「おはようございます、伊地知くん」
「お、おはようございます」
「昨日って担任何か課題とか言ってました?めっちゃ怒られたような記憶しかなくて」
「課題は無いですよ。ただ午後から実技実習だそうですよ」
「なんだ、良かったぁ」
(「昨日は寝ぼけていただけか・・・」)
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2021.10.29