肩を容赦なく揺すられ、不満をぶつけるように低い呻き声を上げる。
しかし相手はそれで退かず、終いには人の耳を捻り上げてきた。

「おい、五条。起きろ」

口早な声に寝ぼけ眼で起きてみれば、同期がやっと起きたか、とばかりな顔でこちらを見下ろしていた。

「・・・んだよ、硝子」
「お前、どこ行ったか知らないか?」
「はあ?なんでんな事・・・」
「あいつ、部屋に居なかった」

呟かれた言葉に、一瞬間が空いた。
時計を見れば午前5:30。
いつもならまだ爆睡している時間だ。
そしていつもならこの手の話は取り合わずにベッドに戻る所だが、悟は仕方なく上体を起こし頭を掻いた。

「・・・そんでどーしてここに来んの?」
「単なる消去法だ。
七海は任務、伊地知は医務室だからな」
「なら携帯にかけりゃいいじゃん」
「とっくに掛けた。繋がらないからここに来たんだ」
「だから、何でーー」
「部屋が妙に片付いてた」

普段は見せない僅かな焦燥をにじませた硝子の一言に、不機嫌そうな悟の動きが止まる。

「昨日、任務で負傷して手当したが妙に考え込んでる風だったから気になって部屋を見てみたらモヌケの殻。
携帯も通じない、だからここに来たんだ」
「・・・夜蛾センには?」
「まだだ」

降りる沈黙に、考えたくない可能性がちらつく。
苦々しい思いをしてきたからこそ、後輩の妙な変化に以前はなかった選択肢が上がる。
深く嘆息した悟はベッドから出ると、ベッド脇に立つ硝子に背を向けてドアへと歩き出した。

「硝子は伊地知叩き起こして心当たり聞いて」
「お前は?」
「叩き起こされて目ぇ覚めたからコンビニ行ってくる」
「分かった」

















































































































ーー早とちりーー


















































































































まだ薄暗い中、言葉通りコンビニへと向かいながら悟は周囲を見回し手がかりの残穢はないかと目を配っていた。

(「あいつ、何考えて・・・!」)

と、その時。
遠くから響いてくる、小さなだが徐々に近付いてくる軽快な足音に目を凝らせば捜索人が息を弾ませてやってきた。

「あ、れ・・・ごじょ、せんぱ・・・」

驚いているようなに、悟は苦々しい表情で当然の問いを投げた。

「・・・何してんだ」
「何って・・・走ってたんですよ」
「携帯は?」
「持ってま・・・あ、電池切れてる」
「負傷してんだろ?」
「腕切っただけで大したこと、ないですけど」
「・・・」

全てが空回りしている回答。
早朝に叩き起こされた挙句にこの始末。
悟の心情などつゆ知らぬは、息を整え聞き返した。

「それで、こんな朝早くに何で居るんですか?
いつも起きる時間じゃなーー」
ーーゴンッ!ーー

事情を知らぬの言葉を最後まで聞かず、悟は勢い良く拳を振り下ろした。
当然ながら、顔を合わせて早々そんな暴挙をされる覚えがないは痛む頭を押さえながら反論を続ける。

「痛っ・・・何をーー!」
「紛らわしい事してんなこの馬鹿!」

怒鳴る五条についにも空気が尖り食ってかかる。

「は?いきなりなんなんですか」
「怪我したんなら、雑魚らしく寝てろ!」
「1分前に軽傷だって言いましたが」
「昨日妙に考え込んでたんだろ!」
「またあなたに嫌味言われると思ったからですよ」
「はあ!?俺に嫌味言われるから落ち込んでたってのかよ!そんな繊細なタマかよ!」
「っ!悪かったですね柄にもなく落ち込んで!
でも私が勝手に落ち込んでも五条先輩には関係ないですよ!」

声を荒げたはそこまで言って、深くため息をついた。
急に怒鳴ったが意外だったのか、黙ってしまった悟にさらに続けた。

「どうせ私は凡庸ですよ、嫌ってほど分かり切ってます。あなたに教えていただく必要もないくらいに。
泣いて立ち止まる暇なんてないなら、自分を鍛えるしかない」

俯いたは自身の腕を強く握る。
おそらくその場所が負傷した場所なのだろう。
長身の悟の位置からは、固く口元を引き結ぶ表情しか見えない。
と、再び深く息を吐いたがようやく顔を上げ悟を見た。

「自分が弱すぎるのを自覚している私をこれ以上貶めて五条先輩は何がしたいんですか?」

呪力は揺らぎながらも涙はない。
だが、傍目に見ていて痛みを堪えるような諦観に必死に抗う今にも脆く崩れそうな表情。
直視できず、悟は横を向き小さく答えた。

「・・・悪い」
「・・・」
「お前が部屋に居ないって、硝子が探してたんだ。
もう高専に戻るぞ」
「はあぁ!?それを早く言ってくださいよ!すぐ戻ります!」
「おまっ!俺も同じ先輩だろうが!」

掌を返したの荒々しい言葉に、先程のしんみり感はあっという間に吹っ飛ぶ。
そして走り出してしまったの後を追うように悟も続いた。
数分後、寮の玄関で待っていた硝子と潔高は走って帰ってきたにほっとした様子を見せた。

!」
さん!」
「すみません、硝子さん。なんか大事にしちゃったみたいで」

悟とは一転した素直な言葉に、硝子もいや、と首を振った。

「ま、こっちも勘違いだったみたいだしな、悪かった」
「伊地知くんも、安静にしないとダメなのにわざわざゴメン」
「いえ、何事もなかったなら何よりです」

潔高を連れた硝子は再び医務室へと戻る後ろ背をは見送る。
そしてより遅れてやってきた悟は横を通りながらあくびを噛み殺した。

「じゃ、俺も二度寝すーー」

と、戻りかけた悟の足が服の裾を掴まれたことで阻まれた。
振り返れば、別れ際よりしおらしくなったが小さく呟いた。

「軽率な行動でした。すみません」
「・・・次から書き置きくらいしろよ」
「分かりました」




























































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2021.12.01