着慣れない着物に身を包み、ガヤガヤと騒がしい伝統ある日本家屋の格式高い屋敷を見上げる。
広い庭に作られた池の横で、ちらちらとこちらを見てくる知らない視線を受けながら、とてつもない場違い感を抱きながらは心底帰りたいと思いながら、がっくりと頭を抱えた。
(「なんで私こんなとこ居んのよ・・・」)
ーーこれも愛の告白?ーー
遡ること、一週間前。
一つ上の先輩が卒業と同時に正式に高専から離れることを聞いた。
その話にショックは受けなかった。
というか、むしろ少し安心した自分がいた。
優しい人だから、呪いとは無縁の世界で幸せになって欲しいと、二度とこちらの世界に踏み込まないことを願ったくらいだ。
だからだろうか、別れも淡白なもので、任務帰りに卒業式後らしいその人と簡単な挨拶とこれからのことを少し話しただけで終わった。
来年は自分達の番だ。
恐らく、自分はこのまま呪術師としての道を選択するだろう。
何より高専四年生になる自分はこれからも任務を重ねて経験を積まなければならない。
だというのに・・・
(「絶対関わりたくない面倒事にどうしてあの人は巻き込んで来ーー」)
「いよっ!ってば馬子にも衣装な姿だね。
僕の成人式のお祝いに来てくれてテンキューv」
「・・・・・・・・・・・・」
お前マジふっざけんなよコラ。
かけられた声に目は口ほどに物を言う表情で、祝いとは程遠い形相で原因主を迎えれば当人からは『わぁおぉ』と楽しそうに返される。
それが余計にカチンときた。
口を閉じていれば、そんじょそこらのイケメンさえ太刀打ちできない美人顔が、和装でいつものサングラスをしてない素顔でこちらを見下ろしてくる。
一般的な人間ならば、黄色い声を上げて騒ぐような美丈夫だが、今の自分には殺意しか沸かない。
そんな職質されるようなの空気を見てか、わざわざ自分と距離を詰めた悟は耳打ちした。
「ちょいちょい、気をつけてよ。
僕ってば五条家だけじゃなくて御三家でもNo.1の実力者よ?変な因縁付けられたくないでしょ?」
「突然人を拉致ってきたのそっちですよね?帰っていいですか?」
「えー、せっかく気晴らしさせてあげようと思って招待してやったのに〜。
七海も居なくなって、寂しんぼでしょ?前向きになるように一緒にお祝いしようぜ」
「本っっっっっっっっっっ当にデリカシーのかけらもありませんね、糖尿になって総入れ歯になれ、指落ちろ、禿げ散らせ」
「あはははは、最強の僕がそんな事になる訳ねーじゃん」
「はぁ・・・」
こっちは今何かを祝う気も、気晴らしをする気にもなれなかった。
どうしてこの人はそっとしておくってことができないんだ。
「すみませんが、ちょと今日は気分が優れないんです。
申し訳ないんですが私はーー」
「おやおや、こちらは悟様のご学友様でいらっしゃいますかな?」
断りの言葉を遮られ、知らない顔がズケズケと近付いてくる。
当然自分は知らないが、隣からも誰だこいつ、と顔に書いてあるほどの表情で眉をひそめていた。
「いやはや、此の度は成人の儀まっことに喜ばしい。
悟様がいらっしゃれば五条家も安泰でございますな。時に悟様、私の娘が今年16になりましてなーー」
あぁ、最悪だな。
なんだってこんな気分のときにこんなあけすけなゴマスリを聞かされなくちゃいけないんだ。
「ーーつきましては、日取りの方をーー」
「あのさーー」
「気色悪っ」
駄目だ、我慢の限界だ。
「はて、何か仰いましたかな?」
「気色悪いって言ったんですよ、祝いの席のくせにこんな人にゴマスリってその歳でやらかすの見下げ果てますね」
「・・・」
「なっ!なっ!なんだ貴様は!」
「この人格破綻してるクズな先輩のただの後輩ですよ。気分悪いの見せられたんでもう失礼します」
「待て!貴様、私を誰だとーー」
ーーパシッーー
「はーい、汚い手で僕の後輩に触らないでくれる〜」
に届く寸前、男の手は悟によって掴まれた。
自身に伸ばされる手に気付いていただったが、まさかクズだと思っていた人に助けられるとは思わず目を丸めた。
「それと、この茶番ももう十分付き合ってやったんだから終わっていいよね。
後は他の連中と一緒に勝手にやってて〜。んじゃ」
そう言い捨てた悟は呆気にとられるの腕を引いて屋敷を出ていく。
そして、タクシーを拾いその車内で悟はケラケラと笑っていた。
「やー、惚れるねぇ〜。の啖呵の切りざまにスカッとしたわ、あははははっ!」
「・・・・・・」
隣の高笑いを尻目に、晴れ着に身を包んだは盛大に頭を抱え沈んでいた。
(「や、やらかしてしまった・・・」)
ずーん、という効果音を背負うに構わず、懐から取り出したサングラスをかけた悟は携帯を手にポチポチとメッセを打ち出した。
「あー、疲れたからケーキバイキング行こうぜ。そろそろ伊地知も補助監の講習終わるだろ。
あいつも呼んでやろう」
「・・・・・・」
「どうかしたか?」
「・・・・・・すみません」
「うわっ、お前が素直って気持ち悪いな」
「・・・・・・」
「おう、マジか」
立ち直れないようなダメージを受けているほどうなだれているに、いつもの調子が出ない悟はぽりぽりと頬を掻いた。
「誰だか知んないデブだったけど、大丈夫だろ。
そもそも向こうが知ってるのは僕で、お前のことは名前だって知らないだろうしさ」
「・・・・・・いや、問題はそこじゃないです」
「あ、そうなの?」
「・・・・・・自分の堪え性がこれほど無かったのかってのにショックです」
「なんだよ〜、そこは先輩が一人で戦っている腐った世界に腹が立ったって言えよ」
ーーポチッーー
『気色悪いって言ったんですよ、祝いの席のくせにこんな人にゴマスリってーー』
「うわあああああっ!!!何撮ってんですか!今すぐ消して下さい!」
「もう硝子には送っちったv」
「っ〜〜〜〜〜!壊す!携帯寄越して下さい!」
「お、お客さん!車内で暴れないでください!!」
ーーin バイキング先
伊「すみません、お待たせーー」
五「伊地知遅ぇぞ〜、僕が奢ってやるからケーキ食え」
「・・・・・・」
伊「・・・あの、さんはどうして着物姿でここに・・・」
五「只今傷心中だからそっとしていてやんな」
(「あんたの所為だよ」)
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2021.10.29