AM6:00
いつもの早朝ランへと向かおうとした時、携帯の呼び出しが鳴った。

(「誰だろ、こんな時間に・・・!」)
















































































































ーー歩み寄りーー
















































































































ーーガチャッ、ゴンッ!ーー

玄関から盛大な音が響く。
だが鍵がかかっていた玄関ドアは開かず、ズルズルと何かが落ちるような音がした後、しばらくして控えめなノックが響いた。

ーーコンコンーー
『め、恵くん、です』
「・・・」

幼い手が玄関の内鍵を外し、玄関を開ければ額を赤くしたが涙目で立っていた。

「ごめん、玄関開いてると思って勢い余っちゃった」
「・・・ごめんなさい」
「いやいや、自爆だから謝んないで。連絡くれてありがとう、遅くなってごめんね」

お邪魔しまーす、と声量を落として部屋へと入ったは、布団で荒い息をする津美紀の横へと腰を下ろした。
額に手を当てれば、荒い息に見合う熱。
症状への対処は可能だが、これだけでは原因は分からない。

「それで、恵くんが起きたら津美紀ちゃんはずっとこんな感じだったの」
「ん」
「昨日は何食べた?」
「スーパーのとり肉の唐揚げ」
(「鶏か・・・風邪か、食中毒あたりかな・・・?」)
ーークイッーー

しばし物思いにふければ、背後の上着を引っ張られた。

「ん?」
「つみき・・・だいじょうぶ?」

不安な顔。
悟からの話では生意気なガキだと散々っぱらボヤいていたが、このような表情は年相応だし姉を守ろうとする弟のらしい姿だ。
これが本当の彼の姿なんじゃないかと思う。
というか、生意気にしている原因は9.5割やらかしているだろうあの人の自業自得だろう。

ーーぽんぽんーー
「うん。恵くんが私に連絡してくれたから大丈夫。
私が買ってきたポカリをコップに注いでくれる?私は津美紀ちゃんから話聞くから」
「わかった」

素直に頷くと、恵はの指示通りガサゴソと動き出す。
そして、の方も荒い息の津美紀の肩を叩いた。

「おーい津美紀ちゃーん、起きれるかーい」
「・・・、さん・・・」
「そうだよー。今、どんな気分か言えるかな?」
「ふわふわして・・・おなか、いたい・・・」
「そっか。昨日も同じだった?」
「きの、は・・・ふつう」
「そっかそっか、ありがと。じゃぁまず熱を計らせてね」
「・・・もってきた」
「ありがと、恵くん。
津美紀ちゃん、喉かわいてるでしょ?飲めるだけでいいから飲んでね」
「・・・はい」

手早く軽い食事、薬を飲ませれば津美紀は眠りについた。
息遣いも来たときよりは落ち着いていることで、ひとまず問題ないかとは腰を上げ寝室を出た。

「恵くん」

居間にちょんと座っている少年を呼べば、不安げな表情がこちらを見上げた。
本当に心配している弟の顔だ。
は安心させるように、ふわりと笑い恵と視線を合わせ頭を撫でた。

「津美紀ちゃん、眠ったよ。薬も飲んだし大丈夫だと思うよ」
「そう、ですか・・・」

ほっと肩の力を抜いた恵だったが、その頬が赤くなっていることには頬を包み込んだ。

「!」
ほっぺ冷た!ちょっと、これじゃあ恵くんまで風邪ひいちゃう。
ココア入れるから、台所借りるよ。できるまではマフラー巻いてて座って」
「・・・はい」

マフラーを巻き付けた上、コートまで被せた恵を待たせ、は手早くミルクを温め飲み物を準備する。
しばらくして、恵の前に2つのカップが置かれた。

「はい、どーぞ」
「・・・どうも」

普段使っているだろう恵のカップにはココアとその中心に浮かぶ白い塊。
目の前に置かれても飲もうとしない恵に、は首を傾げた。

「どうしたの?白いのはマシュマロだから食べれるよ。
チョコも入れたから市販のココアより絶対美味しい自信ある」
「・・・なんでこんなかっこう・・・」
「え、そりゃ私も寒いし。これなら私も恵くんも温かいでしょ」

そう恵に答え、小さな体を膝の間に抱きかかえる形ではコーヒーを傾ける。

「ふあぁ・・・温まるぅ〜。恵くん、朝ごはん何食べたい?」
「・・・しごとは?」
「今日は無いよ。津美紀ちゃんも心配だし、今日は二人で看病だね」
「・・・」
「あれ、ヤだ?」
「・・・別に」
「良かった〜、五条さんと同じ扱いだったら私凹むわ」

あの人もよくこんな小さい子に拒否られたり引かれたりされているのに平気な顔をしてられるのが不思議だ。
さすが、The・クズ。

「・・・のほうが、いい」

ポツリとこぼされた呟きに、はグリンッと下へ視線を落とす。
そこには耳を赤くする小さな男の子がココアを飲んでいた。
初めて呼ばれた名前呼びに、は口元が緩んだ。

「そっか、ありがと」






























































ーー大人の味
恵「それ、ココアじゃない」
 「コーヒーだよ。ココアとは違うかな」
恵「あいつがのんでるのもコーヒーだけど、色がちがう」
 「五条さんは甘党だから砂糖もミルクも入れてるからじゃないかな」
恵「ふーん・・・」
 「一口飲んでみる?」
恵「ん・・・ゴホッ!?
 「あはは、恵くんはまだココアの方が良いね」



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2021.10.29