ーーピコンーー
「?」
LIN◯がメッセージの着信を告げる。
時刻は夜8時。
任務を終え迎え待ちだったは手元の携帯の通知画面を見た。
「・・・何でピリオドだけ?」
送り主からのらしからぬ内容に首を傾げるしかできないだったが、とりあえず到着した迎えの車に乗り込んだ。
ーー信頼→親愛→?ーー
「ゴホ、ゴホッ」
乾いた咳が部屋に響く。
昨日からの違和感が未然に防げずこじらせることになってしまった。
(「しまった、買い物に行くつもりが・・・」)
早く治そうにも病人用の食料の買い出しを忘れたうえ、薬も無い。
このままだと長引く上に仕事に支障が出る。
いや、その前にこの醜態を面白おかしくからかいにくる人に知られるのが一番嫌だ。
ーーピンポーンーー
悪い予感が的中したかのようなタイミングでインターホンが鳴った。
現実にさせたくなく、かつ動く気力が湧かずそのま無視した。
ーーピンポーン、ピンポーン・・・ーー
「・・・クソ」
しかし居留守は通じず、執拗の呼び出しに悪態を吐いた建人は怠い身体を引きずって玄関の鍵を開けた。
「・・・はい」
「夜分にすみません」
今なら呪霊でも眼圧で祓えるほどの威圧だったが、出迎えに返されたのは聞き覚えがある声。
ゆっくりと閉じた目を明ければ、ドアチェーン越しにマスクをしたが立っていた。
「何度かメッセ送ったんですけど、反応が無かったのでちょっと気になって来ちゃいました」
「・・・は?」
「とりあえず中、入れてもらえます?寒い」
話の内容が頭に入らない中、とりあえずドアチェーンを外し、玄関へと通した。
手にした荷物を置いたは、マフラーを外し、コートのボタンを外し始める。
と、やっと思考が開始された建人がさらに眉間の皺を深めた。
「・・・は?いや、どうしてここが?」
「伊地知くんから教えてもらいました」
「・・・個人情報」
あっけらかん、と返したに建人はふらりと壁に寄りかかる。
そんな建人に構わず、コートのポケットからは体温計を差し出した。
「混乱中のままでいいんで、熱計ってもらえますか?」
「・・・いや、感染る前に帰ってください」
「却下です。そのためにマスクしてるんですから」
「ちょ!」
「寝室どっちですか?こっちかな」
「待ちーーゴホッゴホッ!」
「ほらぁ、喋ると悪化しますよ」
家主の反論を全却下したは部屋へと上がると建人をベッドへと戻した。
そしていつも使っている建人の携帯が床に落ちているのを拾い上げベッドサイドへと置いた。
「七海さん、携帯の通知切るのは構いませんけど、誤送に気付かないくらいダウンしてるならいっそ呼んでもらったほうが助かりますよ」
そう言ったは自身のLIN○の画面を見せる。
本日の建人のピリオドメッセから始まり、の呼びかけに一切既読がついていない文字列がずらずらずらっと並んでいた。
「・・・」
「最初の、五条さんに送ってたら乗り込まれてめっちゃ写真撮られてましたね」
「・・・日頃の行いの賜物と思っておきます」
やっと自身の状況を理解したらしい建人の諦めに、は改めて体温計を差し出した。
「はい、体温計です。
キッチン勝手に使わせてもらいますね。何か食べれそうですか?」
「・・・いえ、今は」
「分かりました。とりあえず熱だけ計っててください」
冷えピタを建人に貼ったはそのまま部屋を出ていく。
しばらくして、ペットボトルとトレーを持って現れる。
に体温計を返せば、マスク下の表情が曇った。
「38.5°ですか、インフルだったらヤバイですね。
関節はまだ痛みないんですよね?」
「・・・ええ」
「とりあえず、水分補給と食べられるものあれば摘んでください」
水分補給用のスポーツドリンクを受け取ると、サイドテーブルに置かれたトレーにはイチゴ、リンゴ、梨、白桃ゼリー。
食欲は無かったが、怠さを紛らせる品々ではあった。
「仕事はどうしたんですか?」
「もちろん、片付けて来てますよ。報告書も提出済です」
「あなたのような人が増えれば少しは仕事も楽になるんでしょうね」
「はは、それはどうでしょうね」
建人の言葉には困ったように笑うに留めた。
その後、薬を飲み様子見となることになり、は腰を上げた。
「熱下がらなかったら明日は病院ですね」
「ええ、そうします」
「一応ここにスポドリとのど飴あるんで適宜とってください」
「ありがとうございます、助かりました」
「いえいえ、それじゃあお休みなさーい」
ヒラヒラと手を振ったは寝室を出る。
そして玄関から外に出たはすぐに目的の人物へと電話をかけた。
「お疲れ様です、伊地知くん。です」
『お疲れ様です。どうでしたか七海さんの様子は?』
「予想通り、風邪でダウンしてました。
昨日から調子悪そうって話らしいけど、もしかしたらインフルかも」
『え!?』
「いや、熱だけじゃなんとも言えないんだけどね。
まだ関節痛み出してないって言ってるし、明日も熱下がらなかったら病院行ってもらうしかないね」
『そうですか・・・』
「伊地知くんは?」
『私は今のところ不調はありませんが・・・』
「うーん、念のため私から硝子さんに一報だけしときます。
伊地知くんも無理しないようにね」
『ありがとうございます』
「で、こっから本題なんだけど・・・」
翌日。
目を覚ました建人だったが、昨夜ほどでないにしろ通常には及ばない体調だった。
(「まだ怠い・・・」)
これは熱が下がってないな、と昨夜の後輩の言葉通り病院に向かうしかない状況に小さくため息をついた。
そばにある体温計が目に入ったが、どうせ病院に行くなら不要かとふらりと洗面所へと向かう。
ーーガチャーー
「あ、おはようございます」
ーーゴンッーー
リビングでは、カフェで買ったらしいコーヒーを当然顔で飲んでいたが出迎えた。
あまりにも当然と居座る様子に、壁に頭を打った建人はズキズキと新たに生まれた痛みをさすりながら聞いた。
「・・・呪霊?」
「残念、本人です」
「あなた、帰ったはずじゃ・・・」
「帰りましたよ一度。さっき着きました」
「鍵は・・・」
「昨夜だけ借りました。ありがとうございます」
「・・・」
事後報告。
まぁ、昨日は薬を飲んでそのまま寝てしまったので鍵をかけようがないのは確かだが。
いや、どこを突っ込めばいいのか今は頭が回らない。
ぐるぐると考えているような建人の様子を見ていたは飲み終えたカップを置き、再び定位置へマスクを引き上げた。
「その様子だと熱は下がってないですね。
準備できたら病院行きましょう、硝子さんから紹介状書いてもらってきてるので」
「・・・仕事はーー」
「その話は病院に向かう道すがらで。
ゆっくりで構いませんので準備お願いします」
これ以上は話しません、と話を打ち切られる。
言われた通り準備を終えた建人はと共に目的の病院へと向かう。
隣に座ったは、約束通り経緯の説明を始めた。
「硝子さんからはインフルなら逆に高専に近寄るな、と連絡返ってきました」
「・・・そうですか」
「なので、念のため一昨日から七海さんと一緒に行動していた呪術師・補助監督全員、高専から締め出し食らっている状況です。
早く検査してもらわないとですね」
「・・・そうですね」
何気に大事になりかけそうなことをはさらっ、と話す。
そして病院へ到着すると、事前に話が通っていたような流れ作業でスムーズに検査を終える。
結果、陰性とのことで、注射と薬の処方で病院を後にする事となった。
「ええ、硝子さんにもさっき連絡入れました。
他の人には高専への出禁解除と連絡お願いします。はい、それじゃあ」
潔高へと連絡を終えたは伸び上がった。
「はー、一安心ですね」
「お騒がせしました」
「いえいえ、伊地知くんのファインプレーのお陰です。
突然もらった休暇だと思ってゆっくり休んでください。
それにあのまま無理して任務に行かれるより、病気で倒れてもらった方が安心です」
「・・・あなたがそれを言いますか」
「あ、ホントだ」
人の事を言えないことをしょっちゅうしでかしている指摘に苦笑を返せば、タクシーを捕まえようと通りへと歩き出す。
「ま、私は私で出来ることしか出来ませんから、ゆっくり養生なさってください」
「そうですね。
なら帰る前に買い出しに行かないと」
「病人食になりそうなものはもう冷蔵庫に揃ってますよ?」
「・・・いつの間に」
「今朝の間です」
ブイ、とピースサインを向けるに建人は深々とため息をついた。
「はあぁー・・・」
「え!?ごめんなさい!」
「違います。
そういう事、あまり他の人にしない方がいいですよ」
「私は信頼してる人にしかここまでやらないですよ?」
「・・・そうですか」
「そうですよ。あとこれが買ってきたリストです。
不足あるなら今日の任務帰りに私が買ってきますけど」
「・・・いえ、十分です。ありがとうございます」
そう言って差し出されたメモを受け取った建人だったが、出している方のが何かを堪えているような表情をしている事で首を傾げた。
「どうしました?」
「いや・・・七海さんから言われると大変恐縮ですって感じになるなって」
「・・・私はそんなに普段から威圧してますか?」
「違いますよ。そうじゃなくて、七海さんから感謝されると・・・本気で照れるなって」
身近にある悪い見本は、感謝を要求してくるパターンかほぼ嫌味に近い。
それが分かってか、建人は自身より下にある頭を学生の頃のように撫でた。
ーーポンッーー
「素直に受け取ってください。今回はとても助かりました」
「・・・はい」
ーー悪い見本のちょっかい
五「聞いたよ〜、七海に夜這いかけたって?やるねぇ〜」
「果てしなく違うので、妙な事吹聴しないでください」
五「何だよ照れんなよぉ〜、ここで七海の性癖を僕に売っておけばーー」
七「それは名誉毀損で訴えて欲しいとの理解でよろしいですか?」
家「相変わらずのクズさだな」
「ですね、ゲスいが過ぎます」
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2021.10.29