ーーきっかけーー
「そう言えば、
ちゃんはどうして呪術師になろうと思ったんだい?」
「成り行きですね」
買い出し帰り。
補助監督を待つ最中に隣からの問いは3秒とかからず会話が終了した。
本来であれば、先輩から後輩へ間を保たせるためのために振られた会話であれば、話を広げるだろう。
が、残念なことに
にその話題は広げられるほどのものはなかった。
あっさりと終わってしまった話題に、振った当人は目を瞬かせた。
「・・・あれ?それだけ?」
「?はい、それだけです」
「どうしてそういう経緯になったのかな?」
「それは面白みもない話なのでカットでお願いします」
「時間はあるし、後輩が高専に入った経緯を知りたいじゃないか。
話して良いよ」
「・・・」
え、何で話す側の自分に主導権無いの?それを決めるのはこちらだろうに。
という心情の顔を
が返しても、隣から上辺は遠慮するなとばかりなものだが、その背景は話をするまで逃がさんという圧が見え隠れする。
やっぱり厄介な一画だな、とはぐらかすことを諦めた
は小さく嘆息をこぼすと、面白みもない話しですがと前置きし話し始めた。
「両親が呪霊に殺されて、私も殺される所だったのを運良く夜蛾先生に助けてもらったんです」
「・・・」
「で、そのあと親戚に預けられたんですけど、そこが病院でして、そこら辺に呪霊が居たんですよね。
元々、両親とその親類との折り合いが悪かった上に、預けられた経緯と呪霊が見える私は当然周囲から浮いていまして、早くそこを出たかったこともあって預けられるのっけから高専に進むと言う話は決めてました」
さらさらと語られていくが、思いの外重い話の導入だった。
だが、流れるように話している後輩はまるで教科書を読み上げる要領で続けていく。
「中学の頃からちょくちょく高専にお邪魔していたのは、すでにご存知ですよね?」
「あぁ、そうだね・・・」
「ならそこは割愛ということで、経緯は以上です」
まるで報告終了の感じで終わった。
呆気に取られる傑だったが、隣は話しかけた時から変わらない表情。
つい今し方、天涯孤独となった経緯を語ったばかりとは思えなかった。
「すまない、嫌な事を思い出させてしまったね」
「え?・・・あ、いえ、もう昔のことなので気にしないでください」
傑の返しに気遣われる方が驚きとばかりな
はブンブンと手を振る。
そして哀れみが込められた視線から逃げるように
は手元の荷物を抱え直すと自身の話に思いを馳せた。
正直、今思えばこんな厄介者をよく引き受けたとも思う。
世間体もあったのだろうが、衣食住に不自由はしなかったことには感謝している。
互いに線を引いていたからこそ、接触も最小限。
預けられたあの家は確かに血の繋がりのある身内なのだろうが、まともな会話は預けられた時と去る時のみだった。
とはいえ、それも高専入学を決めていたから早々の自立を目指していた自分には問題なかった。
そういえば、一度だけ呪霊を祓った場に居合わせたあの家の息子がいた気がしたがあの時は・・・
「ーーちゃん、
ちゃん?」
「え・・・あ、すみません何でしたっけ?」
「だから呪霊は仇になるんだねって話し」
「・・・まぁ、そうなりますね。でもそこには拘りはないですよ」
僅かな間を置いて
は答える。平然とした顔で受け答えはできたはずだ。
記憶はさらに過去へと遡る。
普通ならば両親に愛されるべき幼少時代は、自分は持ち合わせていない。
いや、きっとあった気がしたがもうはっきりとしない。
何しろ記憶に残ってしまっているのは暗いものばかり。
あの頃は呪霊より、実際に手を下してくる両親の方が仇に近い感情を抱いていた気がする。
もしかしたら、無自覚な自身のそんな呪いが両親を殺したのかもしれないが。
と、このまま考え込んでも暗い思考に囚われるだけだと、話題を変えるように今度は
の方が話を振った。
「夏油先輩のご両親も非術者なんですよね?」
「まぁね」
「最初、階級が特級と聞いたのでてっきり御三家関係の方かと思ってました」
「ははは、悟と同じか。あそこまで失礼じゃないよ」
「それは比べるべくも無くです」
とはいえ、類友かつ厄介であることも否めないが。
などと口に出せばその類友とは違う種類の圧をかけてくることは知っていたので黙っていた。
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2025.03.29