都内某所。
待ち合わせ場所に時間通りに着いたは、約束の時間通りに来ないその人のメールを読み返した。

『12月22日9時 用があるから私服で来てちょv by最強』
(「私服で来いって言われたけど・・・」)

寒空の下、面倒そうに息を吐けば白い塊へ変わると空へと吸い込まれていった。

「はぁ・・・」

嫌な予感しかしなかったは深々とため息をつくしかなかった。

















































































































ーーはじめましてーー


















































































































「お疲れサマンサ〜、いよっ!、元気〜」
「・・・」

ハイテンションな声に、一気に元気が無くなったは、遅刻してきた呼び出し主をじっとりと睨みつけた。

「約束は9時ですけど」
「9時12分くらい9時といっしょだろ〜」
「こんな吹きっ晒の中で12分って・・・」

と、続く文句が消える。
何しろ、長身素顔はイケメンのグラサン不審者の後ろ、いやその人が手を引いている小さな姿が目に入ったからだ。
前髪をセンターで分け、長い髪を後ろで結っていた可愛らしい少女。
見たところ小学校中学年あたり。
は即座に携帯を開いた。

「事案、ですね」
「こらこらこら、かっこいい先輩を通報しようとしなーいの」
「いやだってどう見ても誘拐じゃないですか私だってせっかくの休みに誘拐犯となった本人と待ち合わせなんて冗談じゃないですから実力者であることだけは信頼していましたがこれほど人でなしだったなんて知りたくなかったですよひとまず通報させてください」
「めっちゃ早口wウケるw」

ケタケタと笑う悟にの米神に青筋が浮かぶ。
と、笑い飽きたのか、悟は自分の後ろにいた少女をの前に押し出した。

「津美紀、この子は僕の後輩でっての。
で、この子は伏黒津美紀。僕が面倒見てる子の姉ね」
「は、はじめまして伏黒津美紀です」

いきなり見知らぬ初対面の前で緊張しながらも挨拶を交わす津美紀。
そんな少女を盾にしている背後にいろいろ言いたいことが無数にあったが、ここは大人の対応をするしかないは津美紀と視線を合わすように膝を折った。

「はじめまして、津美紀ちゃん。といいます。
後ろの変な人に嫌なことされてない?」
「お前は先輩を何だと思ってんの?」
「いえ!五条さんにはたくさんたすけてもらってます」
「・・・・・・」
「ちょーっと、その心底疑わしい目で見るの止めてよぉ」
「・・・ま、津美紀ちゃんの言うことは信じようかな」

ぽんぽんと津美紀の頭を撫でたは腰を上げると、当初の話へと戻した。

「それで呼び出しの理由はなんでしょうか?」
「は?んなの決まってんじゃん」
(イラッ)知らないから聞いてるんですけど」
「五条さんに、弟のたんじょうびのお買いものにつれてきてもらったんです」
「その弟くんは?」
「ばっかだなぁ〜、サプライズなんだから居るわけねーっしょ」
(「だから知らないっつーのに」)
「津美紀ちゃん、ごめんね1分だけこの人貸してね」

にっこり、と津美紀へ笑顔を返したは悟にずいっと詰め声をひそめた。

「あの、私が呼ばれた理由が果てしなく分からないのですが」
「お前それでも僕の後輩かよ」
「本気で帰りますけど」
「津美紀も小4だからさ。女子としていろいろ入り用でしょ?
さすがのGLGが手とり足取り・・・はいはい、そこ引かないの」

やっと要領を得たは仕方なさそうに小さく息を吐いた。
すぐそこに立つ津美紀が不安そうにこちらを見つめていれば、取れる道は決まってしまう。

「はあぁ、分かりましたよ」
「やっと分かったのかよ、このおバカさんv」
「・・・津美紀ちゃん、お待たせしました。やっとこの人から事情が聞けたので私も弟くんの誕生日の買い物付き合いますね」
「お、おねがいします!」
「よしっ!そんじゃレッツゴー!」

目的のプレゼントを三人で買い終えると、その後二手に分かれは津美紀と共に買い物へと向かう。
(別れ際に悟からブラックカードを渡された時には割ってやろうと思ったが)
津美紀に服を選び試着室へと向かう道すがら、おずおずと少女が口を開いた。

「あ、あの、さんって、五条さんと同じお仕事しているんですか?」
でいいよ。
まー、そんなところかな。あの人よりは忙しくはないけど」
「そうなんですね。あの、じゃあ・・・」
「ん?」
「こ、こいびと、ですか?」

声を潜めて訊ねてきた津美紀には目に見えて固まった。

「・・・え、それは世界が滅びても無い」
「えー!でも五条さんが女のひとをつれてきたのはじめてだし!」
「それはただ、あの人と付き合える人は限られてるだけだから」
「やっぱりつきあってるんですね!」

しまった、相手が小学生だったことが災いした。
キラキラとした目で見上げてくる津美紀には慌てて自身の言葉を訂正した。

違う違う違う!今のは言葉のアヤで、えーとなんて言うか・・・五条さんと仕事以外で交流できる人は少ないって意味で・・・」
「こう、りゅう?」
「あー、とね・・・仕事柄、友達が少ないんだ」
「じゃあ、さんは五条さんのおともだちなんですね」

純粋で裏のない言葉。
無垢で素直故に、は言葉を失った。
かつてその言葉に相応しい人があの人の隣にいた。
自身がその言葉に見合うとは到底思えない。
でも、この場にいることが意味する自身の存在理由は幼い目に見えるそれに近しいのかもしれない。

「うん・・・そうだね。さ、試着しちゃおう〜」

津美紀との買い物を終え、再び合流すると早めの昼食を取ることとなった。

「あれ、でも今日って平日じゃ・・・津美紀ちゃん、学校はどうしたの?」
「えーと、実は・・・」
「サボらせちゃっーー」
ーーゲシッ!ーー

相変わらず碌でもないこといたいけな小学生にさせるクズのスネを蹴り上げる。
痛みに沈黙する悟を睨み付けるに、慌てたように津美紀が口を開いた。

「で、でも明日からは冬休みなので・・・」
「なんだ今日は終業式だったんだ。それなら問題無いね」
「・・・僕への謝罪は?」

文句を黙殺し、にこやかな笑顔を津美紀に向けるはさらに聞いた。

「じゃぁ弟くん戻るのは?」
「たぶん、夕方くらいです」
「そっか・・・ケーキは買ったけど、他はどうしたい?」
「ケンタでチキン買おうぜ!」
「クリスマスには少し早いですけど」
「前祝いってことでいいじゃん♪」
「津美紀ちゃん、弟くんの好きな食べ物って何?」
「うーん、そうですね・・・しょうが焼き?」
「しょうが焼き?豚の生姜焼き?」
「はい」
「ま、それくらいなら作れるな。津美紀ちゃんは?何が好き?」
「え、と・・・」
「せっかくなら好きなものぜーんぶ作っちゃおうよ。誕生日なんだしさ」

ね?とが提案をすれば、それを受けた津美紀は嬉しそうに笑いつられたようにも表情を緩めた。
そんな二人を目の前に、悟の口元も僅かに上がったがそれに気付く者は居なかった。
その後、買い出しを終え伏黒家へとやってきたは買い出しの食材を選ぼうと袖をまくる。

「よし、じゃぁ津美紀ちゃんはいちごの葉っぱをとってね。
取り終わったらスプーンで、ヘタをぐりっとこんな感じによろしく」
「はい!」
「僕は?」
「目と口と鼻と耳を閉じ体を縮めて端に座って動かないでください」
「酷くね?」
「よっし。では、弟くんが戻るまでに完璧に準備と行こう!」
「おー!」
「おーv!」





































































































夕方。
準備を完璧に整え、帰ってきた本日の主役である津美紀の弟、伏黒恵をクラッカーを鳴らして出迎えた。
顔を合わせた直後は、人に慣れない野良猫の様相で警戒された。
しかし、津美紀と打ち解けている姿が功を奏したのか時間と共に多少は心を許してくれたような言動を取ってくれた。
その後、出資者が食べ尽くしてしまった菓子を買うためその人に付き合わされたは寒空の下を歩いていた。

「あー、うまかった。ってちゃんとした食べれる料理作れたんだね」
「終日付き合わせたくせにその言葉って、ホント最低ですね」

暗い夜道を歩きながら、先を歩く後ろ背に悪態をつくも向こうはいつものように笑うだけだった。

「で?本当の目的は何だったんですか?」

探るのも面倒で、直球を問えば悟の足が止まった。
夜でもサングラスをかけている不審な面持ちの美丈夫が振り返れば、すっとぼけた顔を返すだけ。
余計に腹が立った不満顔でが悟を睨みつければ、そいつはにやっと厭らしく笑った。

「なーんだ。バレてたか」
「伏黒恵くん。
彼が、五条さんが禪院家から身柄を引き受けている秘蔵っ子って子ですよね。
どうして私なんかと引き合わせたんですか?」
「お前なら僕より頼りにされるだろーなって思ってさv」
「先輩」

チリッと肌を刺すような呪力がを包む。
そして、普段から腰に下げている呪具へと手をかけたは、サングラス越しにこちらを見ている瞳へと怒りを鋭く尖らせた。

「この質問をはぐらかすなら、私は協力できません」

ゾクリとするような冷凛とした殺気に口元を歪めた悟だったが軽く指を立てた瞬間、の呪力は霧散し、と同時に悟の隣へと引き寄せられた。

「くっ!このーー」
「こんな所であんま暴れないでよ」
「だったら!」
「はぐらかしてないよ〜、めっちゃ大真面目v」
「・・・」
「お前は僕と違って『普通』が分かってるでしよ?
最強の僕じゃ無理だからね、その『普通』を理解するのって」

淡々と事実を語るが、その内容は心底腹が立つ。
この人が『最強』という事実も、自分が力を持たない『凡庸』であることも。

「それと恵は高専への入学が決まってる。
呪術師になる代償として、禪院家から手を出させない、最終的には抜けさせるつもりなの」
「それ恵くんは・・・」
「無論」
「・・・」
「とは言え、知っての通り僕は最強だから忙しい。力の扱え方は教えれても、メンタルケアは専門外。
そこで『普通』が分かるデキた後輩の出番って訳よ」

やっと喋ったかと思えばつらつらと語られる内容はどれもこれも気分の良い話しじゃない。
何より、人の肩に腕を回している直前に呪力を消し飛ばしてくれてる辺り、この人の『頼み』は半ば脅迫だ。

「・・・卑怯」

何より、このようなやり方をされるのが心底嫌だ。
この人は知らないだろうが、この手のやり口をされるのは2回目だ。

「わざわざこんな、また私が選ばない答えを分かってて、答えを選ばせてやってるようなやり方で人を巻き込むあなたのやり方には本当に、学生時代から腹が立ちます」
「そりゃどーも。僕、お前に頼んだの初めてだけど」
「褒めてないです」
「ま、お前ならあの子達を僕より気にかけてくれるだろ?」
「そーですよ。それは間違いないくらいにね。
どうせ津美紀ちゃんにも恵くんにも私の連絡先渡しているんでしょう?」
「モチ☆」
「・・・はぁ」
「そんで、一応答え貰っとこうか」

頭痛がするような米神を押さえたは、その体勢のまま隣を睨みつけた。

「今後、私を御三家のゴタゴタに巻き込まないでください。私、めっちゃ部外者なんですから」
「それ答えじゃなくて引き受ける条件じゃんw」
「あーもう寒い!早く買って帰りましょう!」
「僕、コンビニ限定スイーツ欲しいなv」
「財布は黙ってキリキリ歩け!ったく無限のチート力、マジ腹立つ!いい加減離れてくださいよ!!」






























































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2021.10.29