潔高の告白を聞いた翌日。
負傷はあっても授業は普通にあるのかと、サボってしまいたい気持ちもあったが、昨日の話を聞いた今は一人になっても悶々と考え込むよりはましかと重い足取りを進める。
いつもの教室へ到着し、扉に手をかけいつものように挨拶を口にしかけたが、途中でそれが無駄だと気付いた。

(「あ、そっか・・・今日からは一人なんだっけ」)
ーーガラッーー
「あ、おはようございます」
「・・・え」
「え?」
「・・・」

ん?

ーーパタンッーー

とりあえず扉を閉めて上を見る。
教室は・・・間違っていない。
とするならば、だ。まだ自分は寝ぼけているのか?
現実を確かめるべく、は再び扉を開けた。

ーーガラッーー
「あの、さん?」
「・・・んー?いやいや、あれ?」
「ど、どうしたんですか?」
「え?私がおかしいの?」
「はい??」

両目をゴシゴシとこすってみる。
しかし景色は変わらない。
は思考を放棄して問うた。

「伊地知くんですか?」
「は、はい。伊地知ですが・・・」
「・・・」
「えっと、さん?」

うん、よし。
都合の良い夢を見ている可能性が残ってる。
ツカツカと教室の中へと入ると、は不思議顔で見上げてくる潔高の前に立つと手を伸ばし。

ーーギューーーッーー
「いたたたっ!ちょ!何を!」
「痛いか・・・じゃぁ、やっぱり現実・・・」
はい!?な、何の話を・・・」
「高専辞めたんじゃないの?」
「・・・え」
「え?って?」
「ええ!?」
「え!?」

疑問符の応酬が終われば、の言葉の意味を理解した潔高は驚きに椅子から立ち上がり、あせあせと力説した。

「や、辞めませんよ!」
「あれ!?だって昨日の話し・・・」
「補助監督になることにしたんです」
「ほ・・・」

我ながらひどく間の抜けた声が出たと思う。
予想以上の衝撃を受けているを他所に、潔高は矢継ぎ早に事情を説明し始める。

「術師としては力不足のですが、補助監督としてなら私でも力になれそうですから」

なんだそれは。
なんだそのオチは。
だって、前の日にあんな追い詰められたみたいな顔してて?
かつての高専を離れた先輩と同じ顔してて?
その翌日にあんな話されてたら誰だってそう思っても仕方なくない?
だからてっきり、高専を辞めるものとばかり思っていたのに・・・
呆然とするに気付かない潔高の弁明は徐々に口ごもっていく。

「・・・」
「その、進路の変更は可能と聞いていたのですが、どうしてもお伝えする勇気が出なくて・・・」

だからあの時に、せめて笑顔で見送ろうとしたのに。
それが単なる勘違いで、まだ高専に、というかこれからもこんな世界に居てくれるというのが、これほど・・・

さん?どうーー!!

全てが自分の先走った勘違いに、は吊られていた糸が切れたように突然座り込んだ。

「どっ!?ま、まだ体調が!?すぐ家入先ぱーー!」
「ストップ」

当然、その行動に飛び上がった潔高は、声からでも分かるほどひどく狼狽えた。
そして教室を出て行こうとする裾をは掴む。

「違うから、早とちりした自分にダメージ受けてるだけだから」
「ダメージ?」
「少しだけ静かにしてて」

顔を上げられず、どうにかその言葉を振り絞る。
恥ずかしさで耳まで真っ赤になっているのが分かったが、理由がそれだけではないことも自覚してしまった。

(「あぁ、そっか・・・私は・・・」)

名付けたくなかった想いに、恥ずかしいやらくすぐったいやら、しばらくは潔高の顔を見ることも動くこともできそうもない気がした。






















































>どっちもどっち
 「いや、やっぱり待って。伊地知くんも勘違いさせるような言い方したのも悪い気がする」
伊「ええ!?で、でも呪術師を諦めるのは事実で・・・」
 「あんな思い詰めた顔で言われたら誰だって勘違いするじゃん!」
伊「えええ!?で、でも!さんも話しを持ち越ししたじゃないですか」
 「それは!伊地知くんがすっごく思い詰めた顔してたから、夜聞くより日中の方がお互いに落ち着いて聞けるかなって思ったからで!」
伊「そ、そんな!私の話しなんてどうでもいいのかと」
 「はあぁ!?そんな訳ないでしょ!!」
「ひえ!す、すみません!」
五「お、なんだ痴話喧嘩か?」
 「違います!!!」
「ち、違います!!!」
家「お前らトマトかよw」





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2023.04.16