(「あれ・・・」)

トイレから戻るとコンビニで買った袋が消えていた。
周囲を見回してもそれらしいものは無い。
これから向かう予定の場所に一緒に持って行くはずの自分のカップだけがポツンと残され、は仕方なくそれを片手に目的の場所へと歩き出した。




















































































































ーーファーストキスは・・・ーー




















































































































「伊地知くん、お待た・・・」
「よっ」

とりあえず待ち合わせの場所に向かえば待ち合わせ相手である同級生の潔高はすでに到着していた。
そしてその隣には2つ上の先輩である硝子が、タバコをふかしながら気楽な調子で片手を上げを出迎える。
は軽く会釈を返した。

「硝子先輩、お疲れ様です」
「真面目に勉強とは精が出るな」
「授業で分からない所があったので」
「ちょうどお互い得意分野被ってませんし、復習も兼ねまして」
「ふーん、クソ真面目なことだな」

感心と呆れが混じったように返す硝子に肩をすくめて返したは思い出したように尋ねた。

「あ、そうだ。硝子先輩」
「ん?」
「コンビニ袋見てません?休憩用にお菓子買ったんですけど、消えちゃって」
「さぁな、私は見てないぞ」
「うーん、ならどこーー」
ーードンッーー

と、背後からの衝撃にの身体が前に揺れる。
視界に掠める白に、相手が誰かは振り返らずとも容易に分かった。
というかこんな幼稚なことをする人はこの高専では一人しか居ない。

「って、五条先輩ですか」

当たり屋かよ、とげんなりしたは離れようとした。
が、

「・・・」
「なん・・・のあっ!?
「おw」
「!?」

突然、背後から長い腕で首元をホールドされる。
これでは離れたくても離れられ・・・じゃなくて。
現在の状況のコレは世間的に言うところの、バックハグというやつだ。
楽しんでいる人と状況についていけない人の前で進行中の醜態に、流石に黙っている選択肢は無く、冗談が過ぎる文句をぶつけようと振り返る。
拳付きで。

「ちょ!悪ふーー!」

しかし思った以上に近い所に相手の顔があった。
当然というかお約束というか、互いの唇が触れたことでが持っていたカップから手が離れた。

ーーバリンッーー
「おーwww」
「ひぇ」
ーードダンッ!ーー

何が起きたか理解する前に背後にかかる重さが増し、は悟を巻き込んでそのままひっくり返った。
携帯を終始向けてる硝子に、羽交い締め状態となっているは抜け出そうとジタバタともがく。
しかし残念ながら首元の固定はしっかりと入っており、自力ではどうにもできず、は顔を真っ赤にし叫んだ。

「ちょっ!硝子先輩!動画撮ってないで何とかして下さい!」
「やべ、ウケるw」
「ウケません!それと私が買ってきたチョコ食べた犯人この人ですよ!
せっかく期間限定で発売されたのに!」
「ファーストキスはチョコ味かw」
「硝子先輩!!!」
「あわわ、さんあまり暴れると割れたカップで怪我されますよ」

終始笑っている硝子からの助力は諦め、潔高の手を借り悟の拘束からどうにか抜けたは気分直しに自販機で買った缶ジュースを傾けていた。
ちなみに潔高は燃えないゴミと化したゴミ捨てに席を外している。
そして、ようやく飲み終わる頃合いになって、やっと笑いが収まってきたらしい硝子は目尻に溜まった涙を拭いながら大きく息を吐いた。

「あー、笑った。で?何チョコ買ったんだ?」
「・・・」

硝子の問いに答えは返らない。
つーん、とあからさまに顔を背けるに思い出し笑いが復活したのか、言葉の端を揺らしながら硝子は続けた。

「おい悪かったって。機嫌直せ」
「・・・」
「お詫びに高級チョコ買ってやるから(五条が)」
「・・・バッ○スです」
「あぁ、子供騙しのブランデー入ってるってヤツな」
「大した度数じゃないですけどね」
「それでこんなとち狂った押し倒しか。夏油が見てたらこの共用スペース吹っ飛んでたな」

再び肩を揺らす硝子に、げんなりとした表情を浮かべながら共用スペースの椅子を占領する悟を見下ろしたは面倒そうに呟いた。

「五条先輩、下戸みたいですね」
「優等生がよくんな言葉知ってんな」
「私は別に優等生では・・・」
「伊地知と同じでクソ真面目だろうが」
「確かに伊地知くんは真面目ですけど、私は違いますよ。それに優等生と真面目はイコールじゃ・・・何ですか?」

注視されていたことで言葉を止めて聞き返せば、硝子は吸いかけのタバコを再び口元に運び呟いた。

「理屈屋だな」
「・・・もういいです」

これ以上続けても揚げ足しか取られないことが分かったは閉口する選択を取ることにした。






















































ーー後日談
五「ほら、受け取れ」
 「突然何で・・・!こ、これは!この前テレビでやってた都内で有名なショコラティエの数量限定品!」
五「コレでこの間のチャラだかんな!変な勘違いすんなよ!」
 「アクシデント対価ですね、承知しました」
家「買収されてら」
 「前から食べたかったんですよ♪」
家「対価として見合ってんのか?」
 「廊下で肩がぶつかったみたいなものですから」
家「そうか・・・」(「微塵も意識されてないとは逆に不憫だな」)
夏「アクシデントって何のことだい?」
ーーパカーー
 「あ」
家「コレ」
「悟、外で話そうか?」
「あ"?」
 「・・・」(「何で硝子先輩も買収しなかったんだか」)





Back
2023.04.16