まずはお礼を言わせて欲しい。
私の家族を見逃してくれてありがとう。
この手紙がもし君の手に渡っているということは、お節介な誰かが渡しに行ったのだろうからね。
君のことだ、相手が呪詛師だからといってきっと手出ししなかったんだろう。
本来なら直接お礼を言いたいが、きっとそれは無理だろうからこの形で受け取って欲しい。

正直、まさか自分がこんな手紙を書く日が来るとは思ってもみなかった。
ドラマや映画で見たシーンではあり得ないとか散々言い合っていたのに、『事実は小説より奇なり』とはよく言ったものだ。
先に断っておくが、文才は無かったみたいだからまとまりがないのは目を瞑ってほしい。

直接伝えられないこんな臆病者の私を君は許してしまうんだろうか。
今この時も、未だに伝えるべきか迷っているが、君に残してしまった傷を過去のものにするために・・・いや、これではまた君に怒られてしまうか。
きっとこの手紙は自身の気持ちの整理をつけるためでもあるはずだ。
私のことはどのような結末になろうと、互いに呪いになる前に手を下してくれる相手がいるから後のことは心配していない。
気がかりなのはやっぱり君のことだ。
運命のいたずらか、日頃の行いの賜物か、あの夜に君と時間を共にできたことは在りもしない存在に感謝しそうになったよ。
正直、あのまま手放しで帰すことを選択しなければ、きっとこの手紙も書いていなかっただろう。

あの日、君に伝えた言葉はあの時の私の本心だ。
今更だが、これだけは伝えておきたい。
あの時だけは、本当に時が止まればいいと思ったんだ。

君はいつも相手を気遣って呪いに転じるかもしれない類いの言葉を選ばない。
だからその厚意につけ込んであんな言い回しをしてしまったのはすまないと思っている。
私が高専を離れたことも、少なからず影響させてしまっているだろうことも謝るよ。

ずっとこんな世界で生きてきたから、非現実的なことに期待はしない主義だけど・・・
もし、仮にもしも来世というものがあって再び会うことが叶うならば、今度こそ君に伝えるよ。
偽らざる、私の心の底からの自分本位の気持ちを。


夏油傑











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2024.08.20