ーーうたた寝してる、あんたが悪いーー

























































































































黒の教団本部には約1年ぶりに足を踏み入れた。
なぜここにいるか。
それは任務でイノセンスを回収したのはいいものの、いつもなら近くにいるエクソシストに引き取ってもらうはずが、
間が悪いことにいなかったことと、自分の方が本部に近いことで訪れる羽目になったのだ。

「さすがは本部。金のかけ方が違うわ・・・」

がいるアジア支部は主に研究に重きを置いているため、資金がかけられる部分は限られる。
が、本部はAKUMAと戦うエクソシストやファインダーの居住空間、訓練場に医療施設と揃っているので、やはり見栄えはする。
かといって、こちらに異動したいとは露ほども思わないが。

「確か〜、科学班のとこ行って、一応、室長に報告して、ヘブラスカに渡して・・・」

本部での手順を思い出しながら、食堂を横切ろうとした時だった。
目の端に、見覚えのある人物を捉えた。

(「あれ、もしかしてユウ・・・?」)

入口を背を向けているが、あのポニテ、近くに立てかけられている刀、そして黒い団服。
そっくりさんでなければ間違いない。
は進路を食堂に変えた。
ピークは過ぎたようで、人はまばらだ。
それに、あの神田の性格故に、彼の周りの席は隔離されたように空いている。
気配を殺して近付いてみる。
と、その頭が微妙に傾いた角度で止まっている。

(「え、何こいつ。うたた寝なんてしてる」)

思わず吹き出しそうになるが、堪えた。
なかなかお目にかかれない珍しい現場だ。
すかさずゴーレムを飛ばし、気を緩めた現場を記録する。

(「待てよ待てよ。
これだけってのもつまんないわよねぇ・・・」)

何かもっと、おもしろくできないだろうか。
でも、彼は現役のエクソシスト。
個人的には顔に油性マジックという、王道だが間違いなく面白い手はあるのだが、それをやれば確実に起きる。
以前、アジア支部にいた頃は寝込みにアニマル耳(ウサギと猫)をつけさせようとしたが、頭につけた途端に起きやがった。
だから、それ以外の方法でなくてはならない。

(「んー・・・ん?」)

と、はテーブルの上に注目した。
そこには食べ終えたと思われるざるそばの器と飲みかけの湯呑。

(「こいつ、相変わらずの味覚センスね・・・・・・!そうだ!」)

それを見たは閃き、配膳口に急いだ。

「ハーイ、おまちーーあ〜ら、じゃなぁいv久しぶりんv」
「久しぶりん、ジェリー。相変わらずのいい上腕二頭筋してるわね」
「ウフ、ありがとvあなたも相変わらず美人ね〜」

ジェリーにまぁね〜、と応じた

「ねぇジェリー、欲しいものがあるんだけど?」
「いいわよ〜ん。どーん!と言ってちょうだいv」
「湯呑に少なめのお茶とあと角砂糖を20個ばかり貰える?」
「いいけど・・・何するの?」

ジェリーの問いかけに、は妖艶に笑う。
その笑顔はジェリーでさえも、頬を赤らめてしまうもので・・・

「うふふ、まだヒミツv」
「も、もう!ってば人が悪いんだから〜
・・・はい、おまちどーん!」
「ありがと〜。帰りにまた寄るからね〜」
「待ってるわ〜ん」

ジェリーに手を振ったは、早速、角砂糖を20個、お茶へと入れる。
たぷん、たぷん、と音を上げ、湯呑をゆすればそれはもう液体とは言い難い形になっていた。
それを確認したはニヤリと笑うと、ターゲットに向けて歩き出した。






















































「・・・と言うわけで、イノセンスの回収は成功。
AKUMAはLv.2が5体、雑魚が10体前後。全滅させといたから。
あとの詳細は報告書見て」
「うん、ご苦労さま」
「別に〜、それは仕事だからいいわ。此処に寄る方が面倒だった。今度から私を呼びつけないでよね」

終止、渋い表情を浮かべるにコムイは苦笑を返した。

「相変わらずだね」
「嫌な奴と顔を合わせるかもしれない可能性を高めてるのが嫌なのよ」
「大丈夫じゃないかな?あの人はもう3年近くもーー」
ーードンガラガッシャーーーン!!ーー
「な、なんだ!?」
「あら今日はお祭り?」

まるで何かをひっくり返したような騒音。
驚くコムイを他所に、が軽口を叩いていると、

ーーバダン!ーー
「し、室長!」
「どーしたのリーバー班長。誰か実験失敗した?」

肩で息を吐くリーバーが飛び込んできた。
焦るようにコムイが聞けば、帰ってきたのは否だった。

「違います!神田が食堂で暴れてるんすよ!」

一瞬、言われた意味を理解するのにコムイは時間を要した。
が、

「ええーーっ!なんでぇ!?」
「それが分かれば苦労しませんよ!怒り狂ってて手がつけられません!」
「全く、人様に迷惑かけたり嫌がる事をするなんて、なってないわねぇ〜」

慌てふためく二人に、我関せずな
そういったセリフを一番吐いてはいけない人が言っているが、この時のコムイとリーバーにはそれを指摘する余裕はない。

「で?原因分からないの?」
「それが、食事してたらお茶が砂糖の塊のような液体に変わっていたそうで、誰がやりやがったんだと、凄い形相で・・・」
「誰がそんな命知らずなことを・・・」

そう、この本部にいる人間で神田の性格を知らない者はいない。
だからこそ、普通は誰もそんなことはしないはず・・・

「ホントホント、誰がやったのかしらねぇ〜」
「・・・・・・」

・・・なのだが、そんなことをする人物の心当たりが、今日のコムイにはあった。
くるりと振り返れば、状況とは真逆にソファで優雅に足を組み、紅茶を傾けている女性が一人。

ちゃん、つかぬ事を聞いていい?」
「つかぬ事ぐらいで私に質問しないでもらえる?」
「じゃあ、単刀直入に聞くよ。
神田君のお茶に細工したのって君だよね?」

問いでなく確認のコムイの指摘に、紅茶から顔を上げたはにっこりと笑った。

「間抜けヅラでうたた寝しているユウが悪いのよ」





































































































余談
「リーバー班長!神田君にすぐに犯人を知らせて!」
「えぇっ!俺がっすか!?嫌っすよ、殺されます!!」
「全く、室長が責任を部下に押し付けるなんて・・・嘆かわしい限りだわ」
「誰のせいだと思ってるの!」
「誰?」
ちゃんのせいでしょ!?」




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2013.9.24