ーーそれはまるで、天からの贈り物ーー
身体の感覚が朧げだ。
視界もぼやけるばかりで、耳に届く音もまるで塞がれているようにこもって聞こえる。
(「・・・ようやく、終われる」)
長かった。
自身の罪を意識したあの日からこの時まで。
過ちを清算しようにも、自分が作り出した罪はもう手の届かない遠いところにあった。
それを引き継がせた事を、後悔しない日は無かった。
それで生み出された者達に、どう償えばと毎日考えた。
そしてある時、命を絶とうとし、親友だった者に殴られた。
『自己満足で終わる気か!お前ぐらいが死んだところで、何が変わるってんだ!
後悔してんなら絶対死ぬな、大腑抜け!』
その言葉を受けたからか、殴られた痛みのせいか、それとも初めて見た親友の涙を見たからか。
自分が作り出した罪の行く末を、ずっと見てきた。
それで償えると思っていない。
もしかしたら、これが本当の自己満足だったのかもしれない。
だが、親友のあの言葉を裏切る事だけはしたくなかった。
だからせめて、生み出された者を少しでも支えてやれるように。
一分一秒でも早く、この犠牲ばかりが増える戦争が終わるように。
しかし、そんな思いを嘲笑うかのように、親友はこの世を去った。
それも自分が作り出した、その罪の権化たる生み出された者によって。
そして追い打ちをかけるように、その親友が大事にしていた孫までも自分は戦争への道へ引き摺り込んだ。
あれはいつの事だったか。だが、その時のあいつの笑顔だけは強烈に記憶に残っていた。
とても嬉しそうに笑っていた。
孫ができたんだと、その子に新しい世界をプレゼントしてやるんだと、しきりに語り他人が呆れるほどに、ずっとその孫の事を話していた。
そして最後には、この戦争に幕を引き、悲しみは私達の手で終わらせようと、話を締めくくっていた。
(「・・・だが、結局それも叶わない・・・」)
戦争は激しくなるばかり。犠牲と悲しみばかりが増えていく。
最期にせめて自分が打った刀を支えていこうとしたあの子に渡してやりたかった願いも、もう叶わない。
これが報いなのだろう。
多くの者に厄災ばかりを振りまいたのは、千年伯爵ではなくこの自分。
本物の悪魔は・・・人間の皮を被った悪魔は自分だ。
(「すまない・・・ワシのせいだ・・・すまない・・・・・・」)
この場にいない者に向けて、何度もそう呟く。
もう声として音にすることすらできないが、何度も。
あぁ、また闇が来る。
きっと今度は、二度と目覚める事がないだろう、そんな確信がある。
そして、伸びて来る闇に手を伸ばそうとした。
その時、
ーーシャンッーー
不意に視界が明るくなった。思わず、伸びた手が止まり、光に振り返る。
耳元で、バクの声が聞こえるが、何を言っているのかは分からない。
だが、ぼやける視界にはっきりと飛び込んでくる者があった。
願い続けた、あの子の意志の強い気高い目が、自分を見下ろしていた。
(「あぁ、あの子はこんな咎人の願いを聞き届けてくれたのか・・・」)
視界が揺れる。
自分は奪ったのだ。親友が願って止まなかった幸福な世界を、生活を、人生を。
全て奪って抗う事のできない戦争へと突き落とした。
そして、赦される罪がある事を知った、3ヶ月前。
あの子は、は言った。『神田を連れて来るから待ってろ』と。
老いた身でそれは難しい話だったが、はそんな大罪人の願いを叶えてくれた。
(「・・・お主こそ慈悲深い天の御使いだ、・・・」)
残された時間はきっと少ない。
さぁ、この子に全てを伝えよう。
自分の罪も、謝罪も、償いも・・・
赦されるためではなく、ただあの時から続く親友の言葉を最期まで貫く為に。
何か夜中に急に思い立って筆が走った一品。
(「あぁ、あの子は・・・から、ものの30分で完成した。
翌朝、読み返して悲しすぎると思ったけど、構わずup(笑)
Back
2013.11.3