祖父に久々に呼び出しを食らった。
年に数回しか顔を会わせないのに、なぜこちらの番号を知っていたのかが不思議でならない。
そして、挨拶もそこそこに用件を聞けば『ちょっと付き合ってv』と、電話口からの声。
思わず は力一杯、受話器を叩き付けた(電話は見事に粉砕された)
その後どういう方法でか、間を置かず違う電話から再び祖父からのコール。
嫌々、連絡の場所に向かえば、いきなり汽車へと連れ込まれ気が付いたらアジア。
諦めて仕方なく付き合ってやれば、辿り着いたのはアジア支部、第六研究所だった。

























































































































ーー戦ういきる決意ーー


























































































































「相変わらず、辛気くさいところ・・・」

以前訪れたのは・・・確か、父が死んで祖父、ハーシェルに引き取られて暫く経った位だったか。
目の前で死んだ父。
殺されるのを、自分はただ見ているしかできなかった。
そして、いつも父が持っていた弓に手が伸び、初めてAKUMAを破壊した。
まるで、戦い方をその弓が教えてくれる様に身体が勝手に動いて・・・
こんな力があるなら、どうして父が殺される前にと思った。
その後、自分の前に次々に現れたAKUMAを片っ端から破壊する日々。
戦争に・・・戦う事に、疲れ果てていた時期にここに来た。

(「そういえば、あの時か。アルマと初めて話をしたの・・・」)

ここで出会った男の子。
まるで使い捨ての駒のような男の子を自分と重ねた。
そして、恐らく同情も。
いつか自分もこんな風に道具として扱われるのか、と冷めた目で自分を見下ろしていたもう一人の自分がそこにいた。
思い出した負の感情を振り払う様に、 は溜め息をつく。

(「聖戦という大義名分の名の下に、ってか。ったく、冗談じゃ・・・!」)

突如、辺りにアラートが響き渡った。
この研究所で異常事態なんて、一体何が・・・
は急いで祖父がいる部屋へと飛び込んだ。

ーーバタン!ーー
「お爺様、何がーー」
!来てはならん!!」


鋭い老人の一喝。
そこにあった光景に、 は動きを止めた。
そこはまるで赤い絵の具をぶちまけたような、血溜まり。
折り重なるように重なっている研究員。その姿は皆、自分には覚えのある者で・・・
声が、震えた。

「・・・トゥ、イ支部長、エドガー補佐・・・みんな・・・・・・?」

どうして、と視線を上げた。
そこにはあの男の子が・・・イノセンスを手にしたアルマの姿があった。

「ア、ルマ・・・」
「あー・・・そう言えば、 も居たんだよね?」
「いかん、 退くのだ!」

ハーシェルの言葉が遠い。
どうして、ハーシェルまで絵の具を被っているんだ?
両手を血に染めるアルマが、笑いながらこちらに近付いてくる。
一歩こちらに近づく度に は足を引いた。

(「逃げない、と・・・」)

そう思うが、身体は思った様に動かない。
だって、だってアルマは・・・

(「逃げるの?この戦争の道具となったこの子達を残して・・・」)






















































ーー自分と同じ道具である、この子を残して?ーー






















































凶刃が迫る。
絶望的な光景に、ハーシェルは叫んだ。

!!」

瞬間、 の口が動き、辺りに深紅の光が降り注いだ。
































































気が付いた は、廃墟となった所で膝をついていた。

「なん、で・・・」

どうして、自分はこんな所にいるんだろう。
確かアルマがイノセンスを振り上げて、祖父が叫んで、そして・・・

「・・・うっ・・・」

ははっと、我に返る。
うめく声に振り返ったそこには、血塗れで倒れている祖父がいた。

「お爺ーー!」

駆け寄れば、一目で分かってしまった怪我の程度。
戦場に身を置いてしまったからこそ分かる、動かせない事実。
血の気が失せている に、ハーシェルはほっとしたような表情を浮かべた。

・・・無事、だったか・・・」
「すぐ医者に・・・!」
ーーパシッーー

腕を掴まれる。
簡単に振り払えるほど弱いものだったのに、 はそれ以上、動けなかった。

「・・・無駄なことを、するでないよ」
「でもっ!」
「力及ばずだが、第二計画に無関係なエリアは無事じゃろう・・・」
「どうして・・・」

どうしてこんな時に、そんなことを言うんだ?
気が動転してるのか?こんな光景、日常茶飯事だというのに・・・
と、そこへ一人の少女が現れる。
その少女とは顔見知りだったから、誰かはすぐに分かった。
こちらに近付いてくるその少女を見たハーシェルは弱々しく笑う。

「守り神が手を貸してくれてのぉ・・・」
「フォー・・・」

の前へ、老人を挟む様にして膝をついたフォー。
悼みを浮かべる少女に、老人はまるで世間話をする様に続けた。

「人間の我が儘ばかりに付き合わせてしまってすまんな」
「ラジエル・・・」
「その名を呼ぶ者も、もうお主だけか・・・」

懐かしむように語る老人は、長く息を吐くと再び少女に続けた。

「造り出されしお主に、ワシが言っても仕方ないが・・・」

そう言ってハーシェルはフォーに頭を下げた。

「すまんな。だが、チャン家の願いを叶えたお主には皆、感謝しておるよ。
お主が全うすべき役目を投げ打ってまで果たしたのだからな」

老人の言葉を聞かされたフォーは、拳を握りしめ俯いた。

「・・・バカやろうだ、トゥイもエドガーもてめぇも・・・」
「ふぉふぉ、そうだのぉ・・・」

楽しげに笑った老人は、俯くフォーの頭を撫でる。

「先に逝った皆に、伝えねばな・・・」

言葉尻がしぼんでいく。
それに、 は祖父と距離を詰めた。

「ハーシェルお爺様・・・」
、よく聞きなさい」

頬に添えられた手が、濡れている。
それが何であるか知っている。自分はこの人がどうなるかも知っている。
自分が何もできない事も・・・

「強くなるのだ、もっともっと強く。お前は力を持っている。だが呑み込まれてはいけないよ。
そして、この戦争を終わらせるのだ。そしてーー」






















































「最愛の者と幸せになりなさい、いいね?」






















































ハーシェルはフォーによって運ばれていった。
それを は見送る事しかできなかった。涙を流すことができなかった。
そして、入れ替わる様に一人の老人が現れる。
知り合いであるその人の名を は呟いた。

「ズゥ老師・・・」
!お主、無事だったのか!?」

駆け寄るズゥに、気遣う言葉に、 は何も答えられないでいた。
暫くして、

「・・・お爺様が会いたがってました」
「!」

ズゥは弾かれた様に を見た。
祖父について知っていることが一つある。
がいない所で、祖父はいつも呟いていた。親友への謝罪と自分を傷付ける言葉。
自分がいるところでは、ふざけた態度しか見せないくせに。
廃れ荒れる自分の心は救いあげるくせに。
いつもいつも、一人になると過去の後悔に苦しんでいた。
だから、きっと祖父は親友であるこの人に・・・

「会って・・・いただけますか?」
「・・・分かった」






















































ズゥが去り、他に生き残りはいないかと、 は残骸の中を歩く。
すると瓦礫の山の一角、そこには青い空を背後に立つ赤を身につけた少年が立っていた。

「ユウ・・・」
「なんだ、てめぇは生きてたのかよ」

呼びかければ、血で汚れた顔でこちらを見返してきた。

「悪運が、強くてね・・・」

それだけしか、言えなかった。
ニヒルに笑う少年の目があまりにも悲しくて。
その手に握られた剣が、真っ赤に染まっていて。
そして、彼がこの場に立っている意味が分かったから。

「知ってたんだ・・・
おれは、この空が青くて広くて高いことを・・・ずっと、ずっと前から・・・」

が言葉を続けられない中、ユウは再び空を見上げた。

「あの時も・・・!」

これ以上、その痛々しい声を聞きたくなくて、 はユウの手を掴んだ。
瞬間、目の前に蓮華の花が一面に広がる。

「綺麗だね・・・」
「!お前、花が・・・」

驚いた表情を浮かべるユウに、 は笑って頷く。

「きっとお爺様達を偲んでユウが咲かせてくれたんだね。
この花はとてもつらく深い悲しみを持たなければ咲かせられない花だもの」

そうとでも思わなければ、やるせない。
自分が甘かったから、だからユウはあの子を・・・
アルマからはいつもイジメられてる、と泣きながら言っていたけど、ユウのあの目は疎んだ子を手にかけた目じゃない。
かけがえのない、同胞のたった一人の、大切な友を、半身を失った目だった。

「ありがとう、ユウ。無事で・・・良かった」

自分より小さな少年を は抱きしめる。
初めて、視界が揺れた。
もう枯れ果てたと思ったのに、祖父の死を目の当たりしても動きもしなかったのに。

「おれは・・・」

そうだ。
彼だけでも生きているんだ、多大な犠牲を強いられた彼が。

「・・・っ!おれ、は!」
「分かってるよ。でも今はここを離れましょう。直に中央庁から追っ手がかかる。
また、ユウが地下に縛り付けられる必要はないよ」

そうだ、私も決めた。
もう後悔なんてしない。
私の前を阻むものは、誰であれ、何者だろうが・・・打ち倒す。







































































>余談
(「やっぱり、あいつは死んだのか・・・」)
「あれ、この人も生きてるっぽいね」
「!?」
「む?誰だ?」
「貴方も第二計画の関係者?ならここにいちゃマズイから一緒に来て」

16歳、祖父の付き人としてやってきた さんの決意





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2013.9.29