「ねぇ、お爺様」
「・・・グランパvと呼ぶように言ってるだろ」
「寝言は寝て言え、クソ爺ぃ」
ーー犠牲になるモノーー
黒の教団、アジア支部。
だがそこは普段、関係者が立ち入りを許されている場所とは違う。
第六研究所、そこはそう呼ばれていた。
陽の光が遮断されたそこは、とても暗く寒い深い地下の牢獄のような場所。
「Oh!ワシは悲しいぞ、孫娘よ・・・」
よよよ、と目元の涙を拭う仕立てのいいスーツを着た老人。
勿論、にはそれが演技だとは分かっているので放置だ。
「あの子達、どうなるの・・・」
胎中室と呼ばれる場所に、一人の小さな男の子が居た。
それをガラス越しに見つめていたが聞く。
男の子は、足元に並ぶ無数の穴に向かって語りかけていた。
楽しそうだが、にはなぜか必死に見えた気がした。
「・・・」
男の子の存在、その穴が何なのか、この研究所が行っている事。
幼いは全てでないが、話を聞かされていた。
この戦争に身を置いているなら、知るべきだと背後に控えている祖父から。
・・・何も、言えなかった。
まるで心がその行いの意味を考える事を拒む様に。
普通なら酷いとか、どうしてそんな事をとか言うのだろう。
だが、自分はそうしなかった。
戦争に近い所にいるから、もう心が麻痺してしまったのかもしれない。
ガラスに手をつく小さな後ろ背を見つめていた祖父は、その肩に手を置いた。
「、覚えておいで。生まれた命は尊く穢れない、罪などあるはずもない。
だが、生み出した者にはいつもそれがつきまとう・・・」
「・・・・・・」
よく、分からない。
なら生み出さなければいいのに。
じゃあ、生み出された命はどうなるの?
まるで使い捨ての駒。命ってそんなに代わりの利くような存在なのだろうか?
「この業に気付かせてやらなんだのは、ワシの責任もある。
だが、この戦争が終わらなければもっと犠牲になる者が増えるのも事実」
「・・・だから、あの子達が犠牲になるの?」
「・・・・・・」
「そして、私も・・・」
「・・・・・・」
幼いが故の素直で残酷な問いに、老人は返すべき言葉を持たなかった。
長く生きたとは思っても、このような幼子が当然に持つ疑問にさえ答えを示してやることができない歯痒さに、老人は呟いた。
「この戦争が少しでも早く終わる事を切に願うよ。だが、ワシはやり方を間違えたくないのだ」
老人も、が見つめる男の子を見た。
まだよりも幼い。
これが自分の親友が生み出した、結果。
犠牲になる者ばかりが増えるこのようなやり方だが、教団本部を統べる中央庁は実験の果てに生み出された成果に更に押し進めようとしている。
それはどうあっても阻まなければならない。
あの時、あいつを止めてさえいれば・・・
男の子の存在が、止めなかった自分の罪を突きつけているようだった。
「結果は手段を正当化するなど・・・これでは悲しみの連鎖は断ち切れん。
勝つ為とはいえ、これではやっている事が千年伯爵と同じではないか・・・」
悲しみに満ちた老人の呟きに、はようやく祖父に振り返った。
そこにあったのは、悲しみを宿した瞳でこちらを見返す、小さな老いた男の姿。
ーーポンッーー
「、あの子達は確かに我らと違うかもしれん。
だがこの世界に生まれ落ちた同じ命なのだ。それを分かっておあげ」
頭を撫でる祖父の手が、とても温かかった。
>余談
「だれ、キミ?」
「はじめまして、アルマ。私、って言うの」
「?」
「うん、一緒に遊ぼ」
in アジア支部にて。
祖父の視察に同行した10歳の
さんと祖父のお話し。
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2013.9.28