研究員が避難する波に逆らうように、は目的のエリアに向かう。
団服に着替えている余裕などない。
さっさと片付けなければ、バクの方が危うい可能性が出てきた。
そして、教えられた一つの南地区には辿り着いた。




















































ーー紳士ならもっと気の利いた招待状くらい送れよーー



















































『人間、もっと殺してやる』
「うわあぁぁっ!た、助けーー」
ーードシュッ!ーー
『?』
「そこまでにしてもらうわよ」

飛び込んで早々、AKUMAとご対面とは。
自分の運の良さに賛辞を送ってあげたい。
まさに研究員を殺そうとしていたAKUMAの手をは弦月で打ち抜き、壁に縫い付けた。

「たっ、助かっーー」
「邪魔よ。さっさと消えてくれない?」

腰を抜かしたような研究員の男にぴしゃりと言い捨てる。
味方のはずのの言葉と鋭い視線に、男は青ざめると這々の体で避難区域へと走り去って行く。
それに構わずAKUMAに近づいたは、弦月を片手に視線を険しくした。

「どうやって入り込んだんだか、ったく・・・」

ここアジア支部には結界があり、簡単には入り込めない。
だから100年もの間この支部に直接攻撃を仕掛けられた事はなかったのだ。
それがどうしてAKUMAの侵入を、しかも複数も許す形になったのか・・・
一人考え込むだったが、壁に縫い付けられたAKUMAがにぃぃと口を歪めた。

『見つけた、黒髪の女、弓を使うエクソシスト』
「Lv.3一体とは、私も舐められたもんね・・・瞬殺してあげるわ」

腹ごなしも兼ねてね、とが言えばAKUMAはけたたましく笑い声を上げた。

『勘違いするな、貴様にノア様から伝言だ』
「伝言?聞いてやる義理はないけど?」

自分の知り合いのノアと言えば、心当たりなど1人しかいない。
はっきり言って、聞きたくもない。
だが、AKUMAはそんなことに構わず口を開いた。

『再会の舞台は江戸に移す。今度は隠し球無しで会えることを楽しみにしている。エクソシスト、
「へぇ・・・面白いお誘いね」

なんだ、こちらの名前を調べ上げる情報力は持っているのか。
しかも江戸に来いとの挑発つきとは・・・
向こうの出迎えの準備は整っていると言う事か。

「ったく、船旅ってあんまり好きじゃないのよね」
『貴様、行けると思っているのか?愚かな奴だ』
「愚か?どうしてそう言えるのかしら?」

弦月を肩に担ぐ余裕顔のに、AKUMAは嘲笑した。

『ノア様からは生きていれば連れて来いと言われている。殺しても問題はーー』

と、AKUMAの言葉が途切れた。
目の前には弦月を構える事なく、肩に担ぐだけの
今攻撃すれば、間違いなくその肉をずたずたにする事ができる。
しかし、

『!』
「『問題はーー』その続きは何かしら?」

冷笑を浮かべたが、先を促す。
だが、自身の意志に反して全く身動きが取れないことに、AKUMAの焦った声が響く。

『な、なん・・・ダ・・・』
「あなた、そのノアから聞いてなかったの?」

一歩一歩、は無警戒にAKUMAへ近づいていく。
まるで何かに捕らえられ動けないAKUMA。
どうにか首を巡らせてみれば、Lv.3の視界に飛び込んできたものは細い光。
それは・・・

『糸、だと・・・こんなもので・・・』
「こんなもので十分なのよ。
アジア支部に群がってたAKUMAを一掃したエクソシストの私ならね」

まるでクモの糸に捕らえられた哀れな蝶。
しかし、クモの糸と違うのはそれはイノセンスでできていて、もがけばもがくほどその体に食い込んでいくと言う事。

『ば、馬鹿な!?』
「捨て駒だということすら気づかないそっちの方が愚かだわ」

こつっ、とはAKUMAの真ん前に立った。
そしてその場に不釣り合いな無邪気な笑顔を向け問うた。

「さて、招待する気ならその足ぐらい用意してるんでしょうね?
その糸でバラバラになる前に答えてもらおうかしら?」
『ゴー・・・レムが・・・方ブネ・・・に、導く・・・』

AKUMAがそう言うと、の前にひらひらと見覚えのある蝶が舞った。
これは、あのティキが持っていたゴーレム。
それを捕まえたは、握りつぶしたい衝動を押さえるとAKUMAに向き直った。
身体の至る所に糸が食い込んでいるそれは、もうしゃべる事すら叶わない。

「ご苦労サマ」

は一言そう言うと、細い糸に指を伸ばし、弾いた。

ーーキィーーーンーー
「神の慈悲があらんことを」

弦のように響いた音と共に、AKUMAはバラバラに崩れ落ちた。












































は残りの地区、南西と南東のAKUMAもすぐに撃破した。
どちらもLv.3が一体ずつ。これしきなら問題はなかった。
しかし、北と南でこれだけ離れての襲撃。目的は何だ?
敵の思惑は分からないが、これで教えられた全ての場所のAKUMAを片付けたことになる。
あとは、が懸念している北地区だ・・・

「バク、そっちはどうなった?」
『・・・、か。こっちは・・・ウォーカーが、まだ・・・・』

とぎれとぎれに紡がれる、苦しそうな声。
の背中を氷塊が滑り落ちた。

「バク、まさかAKUMAの攻撃を?フォーは?」
『あたしも、大丈夫だ。・・・バカバクも・・・・な・・・』
「かろうじてって感じじゃない。すぐにそっちにーー」
『それより、お前の方は・・・』

二人の声にひとまず息をつく。
は、バクの問いに答えるのも馬鹿馬鹿しいと、すぐに切り返した。

「愚問だわ。すぐに行く」
『いや、支部の周囲を・・・・見回ってくれ。
通信障害で、状況が掴めん・・・もしかすると、あれだけじゃ・・・ないかもしれない』

バクの言葉には動きを止めた。
しかし、このままじっとしているなどそれこそ無意味だ。
ぐっと拳を握ったは、確認するように聞いた。

「それ、支部長としての指示?」

それとも、単なる自己犠牲による言葉か?
もしそうならすぐにでも乗り込んで、AKUMAなんぞ塵に変えてやる。
嘘か本当かくらいの区別は、長い付き合いなのだから分かる。
それこそ、バクの嘘は分かりやすい。
だが、の思いとは裏腹に、冷静な声が通信機から響いた。

『そうだ』
「・・・分かった」
『頼む・・・』

通信機越しに、恐らくあの少年が戦っている音が聞こえる。
は通信を切る前に、バク、と呼んだ。

『・・・なんだ?』
「後で二人には言いたいことがあるからね」
『あぁ・・・分かってるさ』

その言葉を聞き、は通信を切ると外の出口に向かって駆け出した。













































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2013.9.24